映画・レビュー 『グリーン・ブック』


2018年公開、アメリカ。監督は『メリーに首ったけ』などのコメディ映画で知られるピーター・ファレリー。主演はヴィゴ・モーテンセン。第91回アカデミー賞全5部門でノミネートされ、作品賞、脚本賞を受賞した他、マハーシャラ・アリが二度目のアカデミー助演男優賞を受賞した。音楽はクリス・バワーズ。脚本は、主人公のモデルとなったトニー・ヴァレロンガの息子であるニック・ヴァレロンガが手がけた。

またまた、微妙に新しくて微妙に今更感のある作品ですみません(笑)やっと観られました、の『グリーン・ブック』。イメージしていた以上に軽いタッチの作品でしたけど、うん、映画としては抜群に良かった。

私が個人的に「良い映画」に必要としている要素、「演技」「音楽」「夢」が全て揃っていたなーという感じ。「演技」については、マハーシャラ・アリの繊細で気難しいアーティストな感じも良かったけど、なんといってもヴィゴ・モーテンセン!私、『ロード・オブ・ザ・リング』で、結構ファンだったはずなのに、映画観てる途中「このやけに魅力的なビートたけしみたいなオッサンは誰だろう?」と、ヴィゴであることに気づかなかった(笑)それぐらい、鋭いイケメンのイメージが払拭された、陽気な小太りのイタリア人オヤジがサマになっていたのだ。60年代の南部の黒人差別を扱ってる、との前評判からすると、少々軽すぎるかな、というタッチではあるが、作品全体の明るく陽気な感じは、このヴィゴ・モーテンセン演じるトニー・ヴァレロンガの人柄と魅力によるものが大きいと思う。

実在の天才ジャズピアニスト、ドン・シャーリーの南部コンサートツアーについての物語、ということもあり、音楽も良い。音楽を手がけたのは、セロニアス・モンク国際ジャズピアノ賞を受賞している作曲家でありピアニストでもあるクリス・バワーズ。コンサートの演奏も素敵だが、クラシックにこだわるよりオリジナリティのある今の音楽が良い、と慰めるトニーに、「俺のショパンは唯一無二だぜ」と言ってみせた、ラストのショパン・エチュードOP.24 第11番 「木枯らし」は感動的だ。

「夢」というのは少々分かりにくいが、「ドリーム感」ということである。やはり、映画は2、3時間を集中して消費する「夢」であって欲しい。そこが、物語を切れ切れに読んでいく本とはまた違う楽しみなのだ(私にとってはね)。美しい映像や演出、ということもそうだが、「ドリーム感」には「旅」の感覚も結構重要で、そういう意味で、私は「ロードムービー」的な作品が好きなのである。『グリーン・ブック』はそのまま、60年代の南部を巡るコンサートツアーなので、トニーとドンと一緒に旅している気分がまんま味わえる。エンドロールで、長い旅と映画の作品としての終わりが重なるあの充実感、夢から醒めた感じは格別である。

ネルソン・デミルの『ゴールド・コースト』の記事で書いたように、映画にしろ、文学にしろ、アメリカ文化のエンターテイメント作品のレベルの高さは、なにやら「くそー」と言いたくなるような、手放しで褒めたいけれど、ひねくれ者の私は「いや、ちょっと待って、それでいいの?」と意地悪に言いたくなるような、そんな凄さを持っている。ただ単に面白おかしい、というだけでなくて、オトナな事情や複雑な感情や人情や、そんなものまで包み込んだ上で、きっちりと「面白く」仕上げてくるのだ。例えば、この『グリーン・ブック』で言えば、俳優が魅力的で、音楽が良くて、一緒に旅している感じで2時間があっという間に楽しく過ぎる。観ている間は楽しいのに、観終わった後に、なんとなく切ないような形容しがたい何かが残る。作品と一緒に楽しいだけの時間を過ごした後に、それが終わった後で、楽しいだけじゃない何かが残る、なんて、エンターテイメント作品としては完璧なんじゃないか、と思う。

でもでも、エンターテイメントとして最高の作品だからこそ、やっぱり「これでいいのかなあ」という気持ちになってしまうのも事実。(いやー、捻くれ者ですねえ)もし、この作品のテーマの一つが「人種差別」じゃなかったら、そこまで思わなかったかもしれない。でも、やっぱりテーマがそれとなると、、、この軽さ、エンターテイメント性がちょっと引っかかる。あんまりきれいにまとめ過ぎだよね、っていう。

日本ではあまり大きく取り上げられていないが、アメリカではこの作品のアカデミー賞受賞には賛否両論あったようである。なんでも、受賞発表時には、これでオスカーを逃したスパイク・リーが座席を蹴って憤慨したとか何とか。オスカーが獲れなかった悔し紛れ、というだけではない。スパイク・リーが前回オスカーを逃した際のライバル作は『ドライビング・ミス・デイジー』だった、というのも意味深だ。

『ドライビング・ミス・デイジー』と『グリーンブック』。昔々、アメリカでは黒人差別がありました。それを克服した良い白人が一人おりましたとさ、めでたしめでたし。という奇しくも同じタイプのストーリー。それでいいの?いや、いいわけないでしょ!というのが、アメリカの壮絶な黒人差別の歴史であり、今なお続く闇である。いくら作品が良い仕上がりになっていても、そんなきれいにまとめられておしまいにされたくないよ、と、差別された側からは言いたくもなろう。この作品が、実在の人物の実話に基づくストーリー、というのも、「本当にそんな綺麗事なの?」という感じがして微妙に引っかかる。手がけたのが、白人モデル側の人間(先述したように、脚本は主人公トニーの息子であるニック・ヴァレロンガ)で、視点は常にそちら側にある、というのも複雑、、、

そんな、魅惑的なエンターテイメントに包まれた陰に、ものすごくわりきれないものを秘めている、それこそが、ザッツ・アメリカである。ああ、面白かった、というそのすぐ後で、なんとも複雑でモヤモヤとした感情に襲われる。捻くれ者の私は、そんなアメリカのエンターテイメント作品が好きなような嫌いなような、それでも心躍らせてまた手にしてしまうのである。

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