書評・小説 『制作』 エミール・ゾラ②


『ナナ』や『居酒屋』も、当時のパリの市民生活の様子が、手にとるように生き生きと伝わってくるところが素晴らしいのだが、『制作』は、また違った感動を与えてくれる。作品中、クロードの少年時代からの無二の親友であり、彼の傍で最後まで支えとなるサンドーズは、どう考えてもゾラ自身をモデルにしている。

いま取り組んでいるのは文学界・美術界の小説です。そこに語るのは私の青春のすべてです。友人のすべて、そして私自身をそこに投入します。

友人に宛てた手紙でゾラが語っている通り、そこには客観的にありのままの現実社会を描くだけではない、極めて作者の主観的な熱い想いが込められている。今回は岩波文庫の訳を読んだが、とても平易な文章で読みやすく、文章がシンプルなだけに、作者の想いがストレートに伝わってくるようなところがあった。個人的には、『ナナ』や『居酒屋』よりも好き。クロードの苦悩は作者ゾラ自身の苦悩であり、だからこそ、ある種単調な物語の中に、ページを開いたが最後、世界にどっぷりと浸って離れられない魅力と迫力がある。
自分自身を込めると同時に、自分が生きる時代の息吹をありのままに伝える筆致が鈍らないのが、文豪の凄いところ。特に、百年後の世界をそのまま映したような、生臭い資本主義が跋扈する社会を暴いた描写は見事である。ここでは、小市民が教養者ぶって美術を語り、美術は一種のモードと金儲けの道具に成り下がっている。いかさまがいかさまを呼び、投機が投機を呼び、カネがカネを呼ぶ社会、資本主義の無間地獄を予告するかのような、作者ゾラの冷徹な目。私は、バルザックの『ゴリオ爺さん』を読んだ時、100年以上も昔のパリの社会の中に、現代と全く変わらない、資本主義の本質が描かれているのに驚愕して、「資本主義」というものに(金融会社に勤めていたくせに)初めて興味を持った。こんなに変わらずに力を持ち続けている「資本主義」というバケモノの本質を、もっと知りたくなったとでも言おうか。「資本主義」が良いとか悪いとかそういうことではなくて、ただ単に、その本質は何なのか、可能性と危険性はどういうところにあるのか、えてみたくなったのである。ゾラの『制作』も、バルザックの「ゴリオ爺さん」と並んで、改めて「資本主義」について問い直してみたくなるような作品であった。

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