『アンナの赤いオーバー』
文:ハリエット・ジィーフェルト 絵:アニタ・ローベル
訳:松川真弓 出版:評論社
実話を元につくられたお話。心温まる物語の中で、物の大切さや戦争の大変さが子供にも伝わる貴重な本
《概要》
戦争が終わったらアンナは新しいオーバーを買ってもらうことになっていました。でも、戦争が終わったらお店は空っぽ、お金も食べ物もありません。お母さんはアンナのために、金時計と羊毛を交換し、糸を紡いでもらい、こけももを摘んで毛糸を赤く染め、ネックレスやティーポットと引き換えに布地を織ってもらい、オーバーを仕立ててもらいます。
《おすすめタイプ》
5歳くらいから。女の子向けかと思われがちですが、動物が出てきたり、戦争の大変さをエピソードもあるので、男の子にも読んで欲しい。
《おすすめポイント》
この本は、第二次世界対戦後、実際にあったエピソードを元につくられたお話だそうです。どこの国、という説明はありませんが、絵を描いたアニタ・ローベルは、ポーランド出身のユダヤ人絵本作家ですので、おそらくポーランドをイメージしていると思われます。
この絵本で学べることはたくさんあって、おかあさんが戦争後でもあきらめないで忍耐強くアンナのオーバーを手に入れるため行動してくれる姿も印象的ですし、一枚のオーバーの為に、どれだけ多くの手間がかかっているか、ということもよく分かります。今なら、お店に行って簡単に手に入るお洋服ですが、実際に羊から毛を買って、毛糸を紡ぎ、それに色を染め、布を織って、仕立てる。その一つ一つの工程に携わる人がいて、お金がないから貴重な物と引き換えにして、一歩一歩完成に近づいていく。今では親の私たちだって滅多に実感することのない、その過程の大切さ、物の貴重さとありがたみが伝わってきます。
ストーリー自体は決して暗いものではありませんし、最後には、アンナのオーバー作成に関わってくれた人たちみんなを呼んでクリスマスパーティーをする、というハッピーエンド。でも、戦争の暗い影はそこここに隠れています。戦争で破壊された街並み、閉店や売り切れのお店、傷ついた兵士が物乞いをしているところ、何より、お金が無くて身の回りの物を売らざるを得ないおかあさん、そして物語の最後まで登場しない、二度と戻ってこないかもしれないおとうさん、が戦争の悲惨さを物語っているのです。
子供というのは、そういう隠されたサイン、暗い影を敏感に感じ取ります。この絵本も、うちの子供に初めて読んであげた時には、二人とも「ふーん」という感じで終わってしまいましたが、どうも気になるらしく、後日、何度も自分たちで繰り返し眺めているのを目にしました。ちょっと怖かったり、不気味だったり、寂しかったり、そういう絵本は、子供の心にずっと引っかかっているんですよね。その引っ掛かりを大事にしたいなあ、と思う本です。こういう絵本は手元に置いて、繰り返し読めるといいかもしれませんね。
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