そうすると急に母はきつく僕の手をとって、どもるようにきいた。
「どうだったい、辛かったかい、あっちは」
おっ母さん、そんなことをきいて、僕はなんと答えたらいいんです。お話してもあなたにはおわかりになりません。また決しておわかりにはなりますまい。またおわかりになっていただくこともいりません。辛かったかい、とおききになりましたね…おっ母さん…
僕は頭をふって、答えた。
「なあに、そう大したことはありませんよ。なんだって、僕ら大勢一しょにいるでしょう。だからべつに辛いこともありませんよ」
名言・名文・名句 『西部戦線異状なし』 レマルク
2022.05.20
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