『しんせつなともだち』
作:ファン・イーチュン 絵:村山 知義
訳:君島 久子 出版社:福音館書店
冬の寒さと厳しさを感じながらも、心がほっこりと温まる絵本。「繰り返し」を通じて、小さな子供にストーリーを体感させるのにぴったりです。
《概要》
外は一面の雪でとても寒い。こうさぎは食べ物を探しに出かけて、かぶを2つも見つけました。1つは食べて、1つはお友達のろばさんに持っていこう。でも、ろばさんは食べ物を探しに出かけているので留守でした。こうさぎがそっと置いていったかぶを見つけたろばさんは、やっぱりお友達にあげよう、と思いついて、、、みんなが食べ物を分け合う優しさを持っていて、最後はなんと、こうさぎにかぶが戻ってきたのでした。
《おすすめタイプ》
読み聞かせるなら2、3歳から。動物好きな子にも。
《おすすめポイント》
これも昔からある定番で、日本図書館協会の認定も受けている絵本です。中国の作家、ファン・イーチュンさんの童話を元に、日本人の村山知義さんが絵を描いています。動物がたくさん出てきますが、『ちいさなねこ』みたいに、結構リアルなところが、動物好きにはウケると思います。現代の絵本みたいに、動物たちがキャラクター化されて表情豊かだったり、お家の中がカラフルな物に溢れていたり、というのとは全然違う。動物達は無表情だし、彼らのお家の中ははっきり言って、かなり粗末で殺風景です。でも、それがまた、現代には無い、何もない冬の厳しさを感じさせます。そういう、ある意味殺風景な感じの絵から、動物達がそれぞれみんな、お友達のことを思いやって、一つのかぶを運んでいく、というエピソードの温かさが際立ってくるんです。
ろばさんがさつまいもを、こやぎがはくさいを、こじかが青菜を見つけて、それぞれ自分の家に帰ってくると、かぶが置いてある。こういう同じパターンの繰り返しって、絵本にはよく出てきますよね。読んでる大人からすると、若干まどろっこしかったりするんですが(私です笑)。この絵本を読んでいて、小さい子供に物語を理解させるには、こういう<繰り返し>ってすごく大事なんだなあ、と気付かされました。
大人からすると単純過ぎるくらいのこの絵本のストーリーなんですが、小さい子供にとっては、実は結構難しい。試しに、2、3歳の子供に読んであげてみてください。一度目だと、最後の最後でこうさぎのところに戻ってきたかぶは、最初にこうさぎが取ってきたかぶなんだよ!ってことが、すぐに理解できないのではないでしょうか。小さい子供は、瞬間瞬間、目の前の出来事に反応して生きてますから、たった数ページでも、絵本の初めと終わりが繋がる、というストーリー性を理解するのが意外と難しい。だからこそ、こういう<繰り返し>に意味があるんだと思います。
今の子供向けのアニメ映画なんかを見ると、ものすごく展開が早くて、びっくりしてしまいます。小さな子供を飽きさせないように、という工夫なのは分かりますが、ディズニー映画なんかも、こんなスピード感で本当に子供は理解できるのかしら?と思ってしまいます。
ネットのおかげで、情報化・スピード化が進み、エンターテイメントも、どんどん細切れの、集中力を伴わない類のものに変わっていくなあ、と思います。そういう「今」に生きるセンスも大事だと思うのですが、子供はあっという間に新しいものには慣れて身につけてしまいます。だからこそ、小さい頃は、こんな昔ながらのゆったりした<繰り返し>を楽しむ経験もさせてあげたいなあ、と思うのです。<繰り返し>を通じて物語を頭で理解するのではなく、体感していくようなゆとりある時間。お母さんやお父さんと一緒に絵本を楽しむ大切な時間の意味じゃないかな、と思います。
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