書評・小説『君の膵臓をたべたい』 住野 よる


映画化もされた話題作。高校生が主人公の青春小説。表紙からなんとなく春っぽさをイメージして手にとったのだが、ヒロインの名前が「桜良(さくら)」という以外は、春よりも初夏から夏休みの間の「一夏」的な物語だった。

正直、全然期待せずに読み始めたのだが、思いのほか面白かった。主人公は、本だけが友達で他人と関わることをできるだけ避けている高校生の「僕」。ある偶然から、クラスメイトの桜良が膵臓の病気で余命いくばくもないということを知る。家族以外には知らせていないというその重大な秘密を共有したことをきっかけに、正反対の性格の二人は次第に仲良くなっていく、

設定だけ聞くと、薄幸の美少女の悲哀物語を想像してしまうが、そのあたりは、現代的なキャラクター設定で、ニヒルな主人公と真逆の性格のヒロインとのやりとりは、どこまでも明るく、ある意味死に対して冒涜的なほどユーモアに満ちている。

いかにも現代的な二人の会話や主人公のつぶやきも面白いのだが、一番面白いと思ったのは、すごく性的なものが希薄なところだ。こういう設定の男女2人なら、当然恋愛関係に発展するところが描かれそうだが、現代っ子は安直にそこには飛び込まない。お年頃なのでそういう匂いはもちろんあるのだが、最後まで恋愛っぽさは「ぽさ」のままで、友情なのか恋なのか判然としないまま終わる。そこの区別は敢えて必要無いと言わんばかりのラストもいい。だからと言って、純真無垢だからそうだというわけではなく、二人で焼肉屋でホルモンを食べながら火葬について冗談を言い合ったり、平然と親に嘘をついて豪華ホテルでお泊り旅行をしたりするような現代的な主人公たちである。

こういうストーリーやキャラクターが今の若い人達に、「面白い」とか「共感できる」とか感じられてもてはやされる、ということが、私にとっては一番興味深い。若い男女が死を目前にそれだけ一緒に過ごして何もないなんて!と、林真理子みたいなギラギラしたことを言うのは、オバハンくさいということか。極めて性的に希薄な、それでも真剣で深い男女の関係。そういう年代だからということ以上に、そういう時代なのかなあ、としみじみ感じたのでありました。

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