経済・社会・文化一覧


レビュー ・経済書 『貧困の終焉 2025年までに世界を変える』 ジェフリー・サックス ①

本書の著者、ジェフリー・サックス氏は、29歳の若さでハーバード経済学部の教授となり、途上国政府や世界銀行など各国際機関のアドバイザー及び国連ミレニアム・プロジェクトの長を務め「世界で最も重要なエコノミスト」(ニューヨーク・タイムズ・マガジン)とまで言われる、世界随一の経済学者であり国際開発の第一人者である。 続きを読む

書評 『十七世紀フランスのサロン サロン文化を彩る七人の女主人公たち』 川田 靖子

だいぶ古い本だが、『クラブとサロン』でフランスのサロンについての章を執筆していた川田靖子さんの著書。一般に、フランスサロンの全盛期は百科全書派などの活動を支えた18世紀と言われているが、本書は、その最盛期を準備した17世紀のサロン文化について、ランブイエ侯爵夫人、スキュデリー嬢、ニノンとマリオン、セヴェニエ夫人とラファイエット夫人といった女主人を元に語っている。

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『クラブとサロン なぜ人びとは集うのか』 松岡 正剛 ほか

私が個人的に興味を持っている「編集的文化が発生する場」としてのクラブ、サロン、カフェ論に一番イメージの近い本。「クラブとサロン」を切り口に、古今東西様々な分野の専門家のエッセイをまとめたものだ。 続きを読む


書評『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』 佐藤 優

この本を最初に読んだのは、もう10年近く前のことだろうか。当時、著者の佐藤は、鈴木宗男絡みの背任・汚職事件で実行判決を受け、執行猶予中だったが、ビジネス誌にコラムを連載していてそれが中々面白いので興味をもっていた。米原万理が打ちのめされるようなすごい本で絶賛していたので読んでみたのだが、「事実は小説よりも奇なり」とはよく言ったもの。平和ボケのニッポンで、裏ではこんなに緊迫した外交上の駆け引きや諜報活動が行われ、政治的陰謀が渦巻き、国家が力ずくで国民を捻じ伏せるような事態が発生しているとは・・・と愕然とした覚えがある。

佐藤優の主張が全て真実なのか、一介の小市民の私には知るよしもないが、私はそもそも、日本の一般的なマスコミ報道は全く信用できないと思っている外務省が、国家が、鈴木宗男を切り捨てるために、全力を挙げて「国策捜査」を演出した。この本を読んで以来、マスコミが異常にお祭り騒ぎ的に囃し立てる報道の裏には、いつも何かが隠されているのではないかと疑心暗鬼になってしまう。それくらい、インパクトのある本である。

そもそも外交や諜報活動、実行力発揮のための政官の協力体制などというものは、グレーゾーンが広いことは言うまでもなく、当たり前のように行われていたことを、ある日突然、流用とか癒着とか言いがかりをつけるのは簡単なことだと思う。それにしても、これだけ大々的に、大っぴらに、民主主義化されて久しい日本で、一般国民までが国家によって狙い撃ちされ、あっという間に「犯罪者」として位置づけられてしまうようなことが現実に起こっている、ということにはうすら寒い恐怖を覚える。

佐藤優は、ノンキャリだが傑出した外務省官僚であり、諜報のプロだが、元々同志社大学で神学を専攻し、大学院まで勉強した、という少し変わった経歴をもっている。あとがきで、「今から思えば五百十日間の独房生活は、読書と思索にとって最良の環境だった。学術書を中心に二百二十冊を読み、思索ノートは六十二冊になった。その中で繰り返し読んだのが聖書『太平記ヘーゲル精神現象学だった。」と述べているくらいなので、古典歴史教養が極めて高く、その歴史的・社会学的推察は高邁で、文章も抜群に上手い。とにかく、緊迫感があってぐいぐいと引き込みながら、日露外交の裏話から、外務省官僚の生活、独房生活の具体的な描写、どの面を切り取ってみても実に面白い。

日産元社長のカルロス・ゴーン氏が108日ぶりに保釈され、森友事件の籠池氏は初公判で「これは国策捜査だ」と語った。こういう事件全てを一緒くたにして「国策捜査」と片付けてしまうのは尚早だ。実際、佐藤優氏自身はカルロス・ゴーン氏の逮捕については「これは、国策捜査ではない」との見解を示している。(『現代ビジネス』の記事より)ただ、日本の画一的なマスコミ報道のあり方やお上の「検察」が嫌疑をかけた時点で有罪扱いされることが許されるような世間的風潮に、一歩後ろに引いて眺めてみようと思うきっかけにはなる。

『国家の罠』を今また読み直して面白いな、と思うところはもう一つあって、ロシアとの北方領土問題が再燃している時期だからである。ここへきていよいよ「2島(先行)返還」の選択肢が現実味を帯びてきているが、この「2島(先行)返還」については、既に鈴木宗男氏と佐藤優氏が外務省で活躍していた頃から秘密裏に交渉のテーブルに上がっていたことが、本書を読むと分かる。これを読むと、北方領土交渉についてはある意味で、丸々20年間時が止まっていたとも言えるのではないかと思ってしまう。いや、時を一方的に止めてしまったのは内紛に明け暮れた日本の外務省だけなのかもしれない。とにかく今読んでも得るところの大きい一冊である。

【参考】

●佐藤優氏のカルロス・ゴーン氏捜査についての見解はこちら2018年12月『現代ビジネス』)

●佐藤優氏の北方領土2島返還についての見解は

『現代ビジネス2018年12月)

niftyニュース池上彰氏との対談

『クーリエ・ジャポン』記事(2018年11月)