『資本主義に未来はあるか』 イマニュエル・ウォーラーステイン他


イマニュエル・ウォーラーステイン、ランドル・コリンズ、マイケル・マン、ゲオルギ・デルルギアン、クレイグ・カルフーンの5人が、歴史社会学の観点から、現在進行中のグローバル資本主義の構造的変化と危機の分析に基づいて「資本主義の未来」を論じている。

マルクスやウェーバー的な考えに基づき、地政学・国際政治・イデオロギーと資本主義の因果関係を分析するという点に共通点はあるものの、それぞれの学者の専門分野や主張は異なっており、対照的な共通の結論やシナリオを提示するものではない。各者の主張は、翻訳者のあとがきで要約されているので、ここでは、個人的に気になったところだけをメモしておこうと思う。

イマニュエル・ウォーラーステインは資本主義をコンドラチェフ循環とヘゲモニー・サイクル(覇権循環)をメカニズムとする歴史的システムとして定義し、システムが「構造的危機」に陥っていると主張している。

今日の世界の問題は、政府が資本主義システムをどのように改良すれば資本の無際限の蓄積を効率的に追求する能力が刷新できるのかということにあるのではない。こういったことを行うのは不可能であり、資本主義システムにとって代わるものを問うことこそが問題になっているのである。

ランドル・コリンズは、ネットやAIの発達によって中産階級の仕事の消滅と失業率の上昇による危機を指摘しているが、特に興味深いのは卒業資格と教育インフレが自己原因的に進行し、結果的にそれが余剰労働を吸収し、ケインズ主義的作用するプロセスを指摘している点である。

卒業資格のインフレがもたらす重要なことは、若者が教育市場に戻ってさらに高い卒業資格を求めるようになっていくということである。原理的に、それは際限なきプロセスであり、(略)卒業資格は社会的に価値があることを示す通貨で、職へのアクセスと交換される。(略)卒業資格の場合も同じように、その供給増加は上層の中産階級の職を得るための競争をさらに激化させる。こうして、教育のインフレは自己原因的に進行する。

しかし、学校教育のインフレ・スパイラルは、十分に認識されてこなかったけれども、競争の頂点にいない学生に疎外感の拡大とやる気のない態度をもたらした。(略)大衆的で価値が低下した教育システムはエリート職への道を学生に用意していると言っているが、実際には、学校の仲間の80%を」打ち負かさなければ単純労働しか職がないような経済に大部分の学生を送り込んでいるだけである。

教育証明書のインフレは、より多くの人びとを労働力の外部に置くことによって余剰労働を吸収することに貢献する。

福祉国家がイデオロギー的に不人気なところでは、教育神話が隠された福祉国家を促進する。初等教育、中等教育、高等教育の数百万人の教師と彼らの管理者を増やすなら、教育インフレという隠されたケインズ主義が資本主義を実際に浮揚し続けることになる、と言ってもいいだろう。

ゲオルギ・デルルギアンは、1917年のロシア革命を、地政学的プラットフォームと社会学の観点から説明している。共産主義はマルクスの思想から生まれたものではなく、そりあの特殊な地政学的プラットフォームを防衛と近代化に活用した「ボリシェビキ党の成果」であるとしている点が興味深い。

個人的に一番興味を惹かれたのは、クレイグ・カルフーンが主張する資本主義の外部依存性である。カルフーンは、資本主義には常に依存する外部を必要としている、と言う。これは、私がここ数年ずっと考えてきたこととはなはだしく一致している。

資本主義の収益性は、その活動の費用ー人間的、環境的、金融的費用ーを外部化することにしばしば依存しているからである。

そして、資本主義の拡大は、国家と社会のみならず、自然からの搾取にも依存する。資本主義はそれが依存するいずれの条件に対しても破壊的であるが、極端な金融化と新自由主義はこのような傾向をさらに激化させる。

暗黙の社会契約は、資本主義的企業の正統性のみならず、その継続を保障する国家の正統性をも高めていくものである。市民は成長の見返りとして、不平等と長期的費用の外部化を許容する。

カルフーンの主張する資本主義の外部依存性は、ウォーラーステインの主張する「資本の無際限の蓄積を目的としている」資本主義の特性と共に、環境や自然資源との問題にもあてはまる。

まさに「自然」を資源と考えてきたことこそが、資本主義の興隆を特徴づけるものであった。これまで自然は資本主義に利用され搾取されるべきものとして存在してきたが、そのような自然の搾取の例は、森から水に至るまで枚挙にいとまがない。(略)資源としての自然はつねに制限されたものとして現れるのに、資本主義は無制限の拡大システムとして組織されているので、資本主義は自然の限界を乗り越える努力をし続けてきた。

最後に、マイケル・マンをはじめとして、「気候変動」「世界的流行病」「核戦争」の3つを特に大きな不測の要因として挙げている点を記録しておこう。原著の出版は2013年であり、コロナ流行の前である。

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