タイの女性作家トムヤンティの作品で、タイでは映画化もされている有名な作品。高校生の頃、図書館で偶然見つけて読んだだが、すごく面白くて印象に残っていた。
作品の特徴を一言で言えば、タイ版『風と共に去りぬ』。第二次世界大戦下のタイ・バンコクを舞台にした大河ロマンである。主人公のアンスマリンは、庶出の子ながら、優しく気丈な母と祖母に育てられ、賢く独立心の強い女性に成長していく。そこへ、バンコク造船所の新任所長として日本軍の小堀将校という青年が赴任してくる。祖国を遠く離れた寂しさから、現地の人々との触れあいに慰めを見出し、次第にアンスマリンに惹かれていく小堀。一方、アンスマリンは、日本軍への反発心から彼に対して心を開けない。やがて、閉鎖的な村の中で、二人の仲が噂になってしまい、その責任をとって小堀はアンスマリンに結婚を申し込む。アンスマリンは頑なに断ろうとするが、タイと日本両国の軍事的駆け引きの中で二人の結婚は既成事実にされてしまうのであった。結婚し、妊娠した事実がわかっても、中々小堀に心を許せない意固地なアンスマリン。やがて、アンスマリンの実父が日本軍へのレジスタンス活動に参加していることがわかり、祖国への想いに引き裂かれる二人の愛は悲しい結末に・・・
今読むと、結構メロドラマ的な要素も強いのだが、やっぱり面白くて一気に読み終えてしまった。面白さの秘訣は、何と行っても登場人物の生き生きとしたキャラクターにある。アンスマリンは、ほんとに意固地で素直じゃなくて、同じ女から見ても可愛くない!と思ってしまうのだが、それでも魅力的なのは、祖国を思う心の強さやプライドがあるから。スカーレット・オハラが、タラの土地と自分の「家」というものに感じる強い自負心と愛情に似ている。そういう強さが、この憎たらしさにも関わらず、周囲の男性を惹きつけてしまうのか~と、東西全く違う文化の中で、こういうキャラクターと作品が生み出されたことに妙に納得したのであった。アンスマリンは、祖母に「あの子のあの意固地さが身を滅ぼすよ」的不吉な予告をされ、事実そうなるのだが、スカーレットも最後には、その強さが仇になってレットの愛も失うってしまうので、、、むむ、深い。『メナムの残照』の方は、『風と共に去りぬ』と比べてしまうと、ストーリー展開もキャラクターもかなり月並みで、深みには欠けるが、大河ドラマ的単純明快な面白さがある。
タイで映画化され話題になり、日本でも公開されているようだが、確かにこれは映画化にぴったりな作品。タイの作品も観てみたいが、もし自分が映画化したらキャスティングはどうするかなあ・・・などと楽しい空想をしてみたくなる。私は映画はたくんん観る方ではないが、たまに本を読んだ中で、「あ~これは是非映画化してみたい!」と思う作品がある。そういう作品は大体、登場人物が生き生きとしていることと、映像的な描写が美しいことが共通している。『メナムの残照』も、冒頭にアンスマリンが朝靄に包まれるメナム河をのびのびと泳いでいる美しいシーンがあって、とっても印象的。タイのみずみずしい青々とした田園地帯の風景が目に浮かぶようだ。
余談だが、今までで一番「もし私が映画監督なら映画化してみたい!」と思った本は、リチャード・アダムズの『白いブランコの少女』という作品である。今回調べてみたら、88年に映画化されているようだが、日本では未公開だったようで、作品の評価もいまいち高くないので残念。原作はなんとも言えなく想像力を喚起する物語になっているので、いつか名匠の手で再び映画化されるのを期待したい。
『メナムの残照』の方に話を戻すと、映画化されたとして、超理想化されて描かれている小堀将校を演じる男優を決めるのは至難の業だと思う。作品の中での小堀将校は、軍人らしい毅然さと忠誠心と、アンスマリンへの深い愛情に己を引き裂かれるナイーブさを併せ持っている。イマドキの若手男優には、これを演じ切る器があるか・・・などと余計なお世話の妄想をして楽しんでいる私なのであった。
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