『すべての雲は銀の・・・Silver Lining』 村山 由佳


ストーリーは単純。優しいけれど、どこか覇気が無いイマドキ流行りの「草食系」な感じの大学生の男の子が主人公。彼は、あろうことか、つきあっていた彼女を実の兄に寝取られてしまう。傷心のまま、友達が薦めた信州山奥のペンションに住み込みアルバイトを始め、個性的な店主やら、その姪と名乗る子持ちでワケありの女性瞳子さんやら、花屋の夢を一心に追う二人の同世代の女友達やら、様々な人たちとの関わりと、田舎の地に足のついた肉体労働の日々を通じて、段々と心を癒され、大人になっていくく、、、というストーリー。最後は、ずっと逃げ続けていた主人公が、兄と向き合い、一目会って許しを乞いたいという彼女の願いを聞き入れ、親には大学を中退してペンションで働く決意を告げるために、東京に帰る電車に乗ったところで終わる。

 ちょっと、「都会の疲れた暮らしから田舎の農村生活への回帰」という安直なテーマが匂ってくるきらいはあるものの、登場人物のキャラクターや感情表現、セリフなどには気が配られていて、ディティールもしっかりしているので、読みやすいし、爽やかな読後感で、中々良い作品だった。

 村山由佳は余り好きではなかったが、数年前、直木賞を受賞した『星々の舟』を偶然手にとったところ、思いのほか良かった。『星々の舟』は、家族の問題や戦争の問題などについて、作者がすごく真剣に書こうとしたのが伝わってきて、読み手もその真摯な気持に感動させられるような作品だった。

 この作品は、戦争の問題は取り扱っていないが、家族については、中心テーマの一つになっている。『星々の舟』でもそうだが、家族間の葛藤と近親相姦が、作者にとって大きなテーマのようだ。近親相姦については、『星々の舟』では直接的に取り上げられ本書では、間接的・暗喩的に取り上げられている。
「ふだんは当たり前にわかっているつもりでいることでもさ、いざ子どもから素朴な疑問って感じで訊かれると、うまく説明できないことがいっぱいあるんだよな。なあ大和、お前子どもから、どうして妹と結婚しちゃいけないの?って訊かれたら何て答えるよ」
 いや、それはやっぱり法律でそう決まってるわけだし・・・と僕が言うと、それじゃ答になっていないと返された。じゃあ、血が濃すぎると生れてくる赤ん坊に問題が起きやすいからとか答えるしかないんじゃないですか、と言ってみると、なら子ども作らなきゃいいってことか?と訊き返された。
 「これが大人同士だったら、そりゃ倫理上の問題でしょうとか言って適当にごまかせるだろうさ。けど、もし子どもからリンリって何?って訊き返されたら、お前どう答えるよ。ちゃんと説明できるか?」
 少し考えて、僕は、無理だと思う、と白状した。(略)
 子ども相手に教えてみると、いやでも気づかされちまうんだよな、と先輩は言った。自分がじつは、どれほどのことをちゃんと理解していないかってことにさ。
「ねえ、知ってる?世界中ほとんどの国で、近親相姦が禁忌とされているのはどうしてなのかって話」
 「いえ」
 「それが人間にとって最も起こりやすいことだからなんだって」
 案外それってほんとかもねえ、と笑って、瞳子さんは頬杖をついた
この人間社会の絶対的タブーを取り上げることによって、著者は、深く人間の真の姿、ありのままの姿に迫ろうとしているのだと思う。

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