書評・エッセイ 『おいしい日常』 平松 洋子


食通ではないが、食べることが好きである。要は食いしん坊ということか。子供の頃から活字中毒なので、「美味しそうな描写を読む」というのにめっぽう弱い。小説でも、食のシーンがこと細かに描かれているものは大概好きである。村上春樹も、江國香織も、川上弘美も、読む理由の半分くらいはここに力点が置かれていると言っても過言では無い。

そんな私が平松洋子さんのエッセイを読んだら、もう、食べることで頭がいっぱいになってしまう。年中ダイエット推進中の今となっては禁忌なわけだが、家族全員の3食&おやつを毎日作らねばならない夏休み中のストレス発散だ〜!と、勝手に自分で言い訳して、ついつい解禁してしまった。

お米やお水など、平松家の家庭の味のこだわりについて書かれた第一部、具体的な調味料を挙げて使用法などについて説明してくれる第二部、日本全国津々浦々美味しいものを食べ歩く第三部、の三部構成になっている。

一番好きだったのは、第一部だ。台所のボウルを一つ手にぶら提げて路地奥のお店でできたてをもらってくるお豆腐。アルミの羽釜、信楽の黒い陶釜、昔なつかしい文化鍋、北欧デザインのような陶器の鍋、韓国の石釜など、様々なお釜との試行錯誤の末辿り着いた、絶妙にふっくらと炊き上げられた白いご飯。茶葉の量、湯の分量と温度、急須に湯を満たしてから注ぐまでの時間とタイミング、年季の入った塩梅で入れるお茶とお茶請けの数々。穏やかな休日の午後、長いままの昆布をチョキチョキ切って瓶に入れたり、煮干しやアゴのハラワタや頭を始末して丁寧にとるだし。

どれも、身近で時間さえあれば誰でもできることである。でも、それがとても難しい。食通で一番大事なのは、食べることへの真摯な姿勢と、情熱と、気持ちのゆとりなんだ、と平松さんは教えてくれる。いや、でもそれが中々できないんだよお。。

あと、平松さんのグルメエッセイで面白いのは、韓国やタイ料理など、アジア料理についてのエピソードも多いところだ。丁寧で上質な和食グルメと、時に雑多で勢いのあるアジアグルメが同居しているところが、特に女性ファンの心をくすぐるのかもしれない。

調味料の紹介でも、お馴染みの醤油やみりんへのこだわりから始まって、タイのトムヤンクンに使われる香辛料ナムプリックパオやレッドカレーペースト、ココナッツミルクまで挙げているのが面白い。今ではすっかり人気となった香菜の魅力、韓国や中国でも登場する豚足料理など、アジア旅行好きの好奇心もしっかり満たしてくれる。

豚足やすっぽんといった「アジア」な食材を、フレンチで食す、というのも面白かった。リドヴォートフォアグラを詰めて、一度焼いてから赤ワインとクレーム・ド・カシスで煮込み、仕上げにオーブンでカリッと焼いた豚足。歯応えのあるモリーユ茸と白アスパラガスを添えて。或いは、白子、黒トリュフ、トコブシ、下仁田ネギ、冬瓜と一緒に煮込んだすっぽん。

ああ、読むだけで肌にコラーゲンが漲ってきそうだけれど、それは錯覚。読むだけでグルメな気分になってきて、うちの貧相な食卓が自動的に改善されそうだけれども、残念ながらそれも錯覚。大事なのは、食べることへの真摯な姿勢と、情熱と、気持ちのゆとり。近道早道は無いのである。

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