『としょかんライオン』
作:ミシェル・ヌードセン 絵:ケビン・ホークス 訳:福本友美子
出版社:岩波書店
子どもたちの大好きなライオンが、意外な場所、図書館で大活躍。ルールを守ることの意味を考えさせられる、深い味わいのある絵本です。
《概要》
ある日、図書館になんと本好きなライオンがやってきました。お話をもっと聞きたくて駄々をこねると、きまりを守ることに厳しい館長メリウェザーさんに怒られてライオンはしょんぼり。でも、それからは決まりを守って、毎日せっせと図書館に通い、子供たちと本を読んだり、お手伝いをしたり。ところがある日、メリウェザーさんが棚の上の本を取ろうとして足を滑らせ骨折してしまいます。ライオンは助けを呼ぶために、大きな声で吠えました。でも、「図書館では静かにする」という決まりを守れなかったライオンは、自ら図書館を去ってしまいます、、、
《おすすめタイプ》
少し長いので5、6歳くらいから。小学校低学年が自分で読む本としてもおすすめです。本好き、お話好きな子にぴったり。
《おすすめポイント》
これも大大大好きな絵本の一つ。
図書館にライオン。このなんとも意表をつく組み合わせが面白い。強くて怖そうなライオンが、子どもたちと一緒に大人しく絵本を読んでもらうのを聞いていたり、しっぽで本の埃を払ったり、高いところの本が取れるように背中に子どもたちを乗せてあげたり、メリウェザーさんの手紙の封をするために封筒を舐めなめしたり、という様子がなんとも可愛いんです。
ケビン・ホークスの絵がとても素晴らしくて、デッサン風の柔らかなタッチ、色調が温かい。それでいて、ライオンや人間の動きや表情など、とてもリアルに繊細に描き分けています。
前半の可愛らしいほのぼのとした感じから一転、メリウェザーさんが骨折してしまい、助けを呼ぶために「図書館では静かにする」という決まりを破って、大声で吠えるライオン。そして、しょんぼりと去っていくライオンの哀しい姿、館員のマクビーさんがライオンを懸命に探すところなど、「どうなっちゃうんだろう」という子どもたちのドキドキするストーリーが展開します。
最後には、マクビーさんが「おおごえでほえてはいけない。ただし、ちゃんとしたわけがあるときはべつ」とライオンに訳を話し、図書館にライオンが戻ってきたのを聞いた館長のメリウェザーさんは、思わず「図書館で走ってはいけない」という決まりを破って駆け出してしまう、というオチも素敵。
たまには、ちゃんとしたわけがあって、きまりをまもれないことだって、あるんです。いくらとしょかんのきまりでもね。
この最後の一文は、さらっとしているけど、とても深い。実際は、「きまりをまもれないこともある」というよりも、「きまりはつねにまもらないといけない」と子供に教えた方が大人は楽ですよね。「ちゃんとしたわけ」を子どもが自分で判断するのは難しいし、もっと言うと、大人だって誰もが納得する正しい判断ができるわけじゃない。でも、敢えてそういう可能性を提示して子どもに考えさせる、というのは、とてもとても大事なことだと思います。「きまりはつねにまもらないといけない」と教え込んだ瞬間に、子どもは思考停止してしまいます。
こういうお話というか、価値観は、日本の伝統的な絵本やお話の中には中々なくて、海外の絵本を読む醍醐味だなあ、と思います。よく言われるように、日本は「きまりをまもるたいせつさ」についてはすごく敏感だけれど、きまりをはみ出したり例外についての判断を迫られると弱い、というところがどうしてもありますよね。だからこそ、こういう絵本で、小さい頃から考える訓練をしておくと良いかなあ、と思います。こういう時には、親が「正解」を用意する必要は全くなくて、親も一緒に「どうしたらいいのかなあ」と考えて、時には答えが出なくてもいい、という体験も大事なのではないでしょうか。
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