レビュー・映画 『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』


『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』をお得に観るには

2017年製作、タイ。監督はタイの新鋭ナタウット・プーンビリヤ。主演女優は、本作が初演となるモデル出身のチュティモン・ジョンジャルーンスックジン。タイのアカデミー賞と呼ばれるスパンナホン賞で監督、主演女優賞、主演男優賞などをはじめとして史上最多12部門を受賞し、アジア8カ国でタイ映画史上歴代興行収入第一位を記録し、話題となった。

ずば抜けた頭脳をもち、私立高校に特待奨学生として入学した主人公のリン。善意で友人のテストを手助けしたのをきっかけに、金持ちだらけの同級生たちのカンニングを請け負って大金を稼ぐビジネスに手を染めていく。ついに、アメリカの大学に留学するために世界各国で行われる大学統一入試「STIC」で大掛かりなカンニングに挑戦することで、夢のような大金を手にすることができるか、、、というストーリー。

タイだし、話題作だし、観たい観たい!って思いながら、またまたブームが過ぎ去ってからやっと観たワタクシ。

でも、面白かった〜♪なんていうか、こういう系統がね、個人的に好きなんです。サスペンスなんだけど、重たいハード系なのではなくて、軽くてスピード感があるタイプ。「スタイリッシュ・サスペンス」って勝手に私の中でジャンル分けしてます。クライム系で言うと『ユージュアル・サスペクツ』や『レザボア・ドッグス』とか。最近のちょっと社会派なエンタメ作品『スラムドッグ・ミリオネア』や『ソーシャル・ネットワーク』的な疾走感もありますね。音楽も映像も凝りすぎてないのに、サラッとキマッてます。

中国で実際に起こったカンニング事件をモチーフにしている、と言われてますが、まあ、あんまり実話っぽくはない、です。監督もイメージは膨らませたけれど、映画のカンニングの仕掛け自体はオリジナルだ、と言ってるみたいです。チラッとネタバレしますと、海外で受験して時差を利用しながらLINEでリアルタイムで連絡を取り合う、答えを即時にバーコード化しプリントする、など、イマドキな仕掛けが盛り込まれています。そもそも、リンに協力を頼む金持ち友人のパットとグレース、そんな労力と能力があれば、フツーに試験受かんだろ!と、やや突っ込みたくなります(笑)でもまあ、この大掛かりな仕掛けを高校生だけでやってる、ってところが良さでもあるので。

アジア8カ国で売れた、って言うのがまた現代的だな、と思いますが、観て納得。映画の中では、天才的な頭脳を持ちながら経済的に恵まれていない特待生のリンとバンク、そして金持ちの同級生たちとの歴然とした格差、と言うのが一つのテーマになっています。高校生が学校内の試験のカンニングで親の何ヶ月分の収入を稼ぐとか、日本ではピンとこないかもしれませんが、この映画がヒットしたような国では、それぐらいの格差は当たり前。カンニングの依頼元であるパットは、学校の試験に通ればご褒美にBMWを買ってもらい、お礼にリンを自宅のプールに招待してシャンパンを開け、両親からは彼女のグレースと一緒にアメリカのボストン大学に行くよう指示される、と言うおぼっちゃまです。一方、リンの家庭はシングルファザーの教師、もう一人の奨学生バンクの母親は、女手一つでボロいクリーニング店を切り盛りしている。この壮絶な格差が、若いジーニアスたちを歪めていく原因なわけです。経済的な格差、それを埋める唯一のチャンスのように見せかけて競争を煽る学歴主義、当たり前のように横行する賄賂社会、、、若者たちを蝕むこうした構造が、アジアの各国の若者の共感を呼んだ理由なのではないでしょうか。

キャスティングも良くて、主人公の少女リンを演じるチュティモン・ジョンジャルーンスックジン(それにしてもタイ人の名前表記長過ぎて覚えにく過ぎてなんとかならんか)は、日本の冨永愛さんを彷彿とさせる、一重の切長の目が印象的な長身美女。もう一人の天才バンクを演じるノン(チャーノン・サンティナトーンクン)も、ちょっと香港映画とかに出てきそうな甘いイケメンです。この二人の、セリフは飽くまで少なくシンプル、だけど表情だけ追っていると、ものすごく純真にも悪賢くも見える、そう言う若い「振り幅」的なところが際立った演技が良いんです。しかも、この二人だけ観ていると、あまりタイっぽくないというか、アジア全域に通じそうな普遍性があります。

一方で、金持ち友人のグレースとパットを演じる二人がまた、いかにもタイのアイドル的な感じで。全てを金で解決するようなどうしようもないボンボンのくせに、リンが退学にならないように学校のマリア像に両手を合わせてお祈りしたりとか、リンの父親が怒鳴り込んでくると笑顔でサワディーカーしちゃうとことか(年上にはどこまでも礼儀正しい)、バイクタクシーを大量動員してSTIC会場に乗り付けるところとか、「いやータイだねえ〜」と、タイ好きな私も思わずニンマリしてしまいました。

主演のチュティモン・ジョンジャルーンスックジンの次回作は昨年12月に日本でも公開されたらしいけど、監督ナタウット・プーンビリヤの次回作の情報はまだ。この監督の次回作なら早く観たいなあ、こんなヒット作の次はプレッシャー大だろうけども。

Follow me!


よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次