35歳で脚本家としてキャリアも収入も十分な主人公の女性が、安寧だけれども満たされない夫婦生活を捨てて、自由で奔放な恋愛とセックスに走る物語なのだが・・・前半は、かなり不満いっぱいで適当に読み飛ばした。
大体において、『失楽園』に代表されるような「不倫を至高の純愛と官能に見立てた小説」というのが胡散臭くて大嫌いである。この手の小説は、まずテーマが自己中心的で浅薄でスケールが小さい。セックスは確かに人を耽溺させる威力を持っているけれど、人生残り少ない中でそれしかない、みたいな書き方をされても、「せっかく人間に生まれてきたんだからもうちょっと死ぬ前にやることあるでしょう」と言いたくなる。その上、「こういう至高の快楽と純愛を味わえる人間は特別の人間だ」みたいな、作家のエゴが透けて見えて非常に不愉快。まあ、作家なんてものはエゴの塊じゃなければ創作できないのだろうが、よくわからないのは、そんなエゴと自己陶酔丸出しの不倫物語を、世間の人が拍手喝采していることだ・・・欲求不満なのか、憧れなのか・・・
この小説も、前半は、いかにもその系統の臭いがプンプンして、「創作するためには今の夫じゃだめ」的な発想から始まり、10年続いた平穏な結婚生活から一転、急に夫は俗物扱いされ、師匠と崇めていた大物劇作家の年上男性とめくるめく官能の世界に耽溺していく。それがいかにも理想的に典型的に描かれるので、読んでる方はどんどんしらけてくる。。。
のだが、中盤から、その関係も全然すっきりしない形のまま破局を迎え、主人公は満たされない想いを抱えたまま、次々と新しい男と関係を持って奔放な恋愛遍歴が展開していく。結局、「恋愛はお互いにファンタジーでしかない」というテーマが根底にあって、一つ一つの関係が理想的な官能の世界として描かれるのは、恋愛の陶酔感を主人公と一緒に読み手に味わせる、という作者の意図があったことがわかるので、まあ許してやるか・・・という感じになって何とか読み終えた。(非常にエラソーですみません笑)
大胆な性描写が話題の一つなのだろうが、セリフとか結構陳腐だし、とりたてて目新しさもないので、別にこんなにたくさんこういうシーンが必要だったのかな、と思うのだが、作品全体のテーマを無視して、文庫版の帯に「他の男と、した?おれのかたちじゃなくなってる」というセリフを抜擢したあたりに出版社側の強烈な意図を感じる。
村山由佳は、直木賞受賞作の『星々の舟』や『すべての雲は銀の・・・』が良かったので、もうちょっと期待していたのだが・・・現代作家はどうしても、その作品群の中に、「売れそう」という出版側の意図を反映した著作をちょいちょい挟んでくるので、ハズレが多くなる傾向があるんだよなあ・・・
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