『冬の物語』 イサク・ディネーセン


Instagramのフォロワーさんからご紹介いただいた、大好きなディネーセンの短編集。以前読んだ『7つのゴシック物語』が忘れられなくて、少しでもデンマークの冬景色が偲ばれる季節になってからゆっくり読みたいなあ、と、購入してからしばらく塩漬にしていた(笑)

私は短編小説と言うのが読み慣れていなくてイマイチ苦手である。この本も、ノッてくるのに少々時間がかかったが、第3,4話目あたりからは、まさにデンマークの冬の海に漕ぎ出した感じ、どっぷりと浸って心地よく読めた。

ディネーセンの物語は、どれも少し不思議な、御伽話や神話のような面白さがある。世界観も例えばフランスやイギリスのような国の文学とは少し違っているように思う。良い例が思いつかないのだが、南米文学のマジックリアリズムみたいな超現実的な不思議なエピソードや展開が織り込まれながら、読者がなんとなくするっと違和感なく引き込まれてしまうところがあるのだ。

訳者あとがきで、ディネーセンの最愛の人デニス・フィンチ=ハットンとのエピソードが引用されているが、まさに、子供に聞かせるお伽話のような魅力が、彼女の短編にはある。

《聴覚で生きているデニスは、物語を読むより聴くほうを好んだ。農園にくると彼はこうたずねる。『なにか話が出来た?』デニスがいない間、私はたくさんの物語をつくっておくのだった。》

『アフリカの日々』でもそうだが、本書でも、彼女の自然描写は本当に美しくて素晴らしい。中でも、デンマークの厳しい冬が終わり雪解けの春の訪れが描かれる「ペーターとローサ」が、私は一番好きだった。

また、この小説に出てくる女性たちがみな力強くて魅力的なのも印象的だった。男の意のままになる正気のない人形ではなくて、血色の良い漲るパワーを秘めた(しばしば赤毛で骨太の)女性たち。でも、その魅力的な女性たちが共通して「子供のいない喪失感を秘めた女性」であることも気にかかった。「真珠」のイエンシーネ、「夢を見る子」のエミーリエ、そして「アルクメーネ」のゲアトルーズ。特に、「夢を見る子」のエミーリエの姿は印象的だ。自分が母になったから余計にそう感じるのかもしれないが、この喪失感は、そのまま著者の心に繋がっていたのかもしれない。

喪失感と抑圧、それに対して生きる力強さとユーモア。『冬の物語」の全てのお話にそれが感じられる。訳者あとがきにあるように、この本がナチス・ドイツの占領下、デンマークの「冬の時代」に書かれたことと関係があるのだろう。冬は長く厳しく、海は荒涼としているのだが、不思議と絶望感ではなくどこか超人的な力強さがある。見たことも行ったこともないのだけれど、そんなデンマークの気風を感じた。

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