蒼々たる肩書きに反して、本書は実に読みやすく、平易な文章で書かれた本だった。実際に発展途上国の開発及び経済復興に関わった経験を活かし、貧困を解消するための実務的な方法・プロセスを検証している。
①貧困の要因及びその解決法として「地理的要因」を挙げていること
②貧困の解決法として「女子教育の普及」に伴う「出生率の抑制」を挙げていること
③貧困の解決法として「農業テクノロジーの発展」「安全な飲料水の確保」「マラリア、エイズの予防」など実践的な方法を提唱していること
④ある層が貧困から抜け出せない原因とその問題点を、「資本の蓄積」という観点から分析していること
⑤アメリカ及び先進国が貧困撲滅のための努力を怠っていることを真正面から取り上げていること
特に①~③は、著者が実際の国際経済開発に携わった経験を活かし、自ら「臨床経済学」と名づけた実践的な経済学に基づく考え方になっている。そういう実践的な体験に基づいて、④~⑤のように、「貧困層(或いは途上国)は、自分たちが努力しないから悪いのだ」と考えがちな、先進国の傲慢さと誤りを指摘しているともいえる。
①地理的要因について
貧しい国々の多くは、運搬コストの高さという深刻な障害を抱えている。(略)長引く貧困の理由は文化だけでは説明できない。むしろ地理的条件を見るべきだ。(略)アダム・スミスが鋭く見抜いたように、経済発展の遅れた地域では輸送コストの高さが大きなネックになっている。(略)地理的に厄介な条件はほかにもある。農産物が生育しにくい乾燥した気候や、不安定な機構、長びく旱魃などに悩まされる国は多い。
②女子教育の普及と出生率の抑制
女子教育の普及によって、女性が労働力に加わると、金を稼げるようになり、それにつれて家で子育てをする「コスト」も高くなる。教育、法律、社会改革を通じて、女性は力をつけるようになり、出産に関しても自分で選択できるようになる。子供たちも病気のときは適切な治療が受けられるので生存の可能性が高くなり、両親は年をとっても子供に面倒を見てもらえるあてができるので、子供の数が少なくても十分だと思える
④資本の蓄積と貧困について
極端に貧しい人々が低い経済成長率から抜け出せない理由はここにある。あまりの貧しさゆえに、将来のための貯蓄ができず、惨めな状態から抜け出すのに必要な一人あたりの資本を蓄積することができないのだ。
資本が蓄積される速さよりも、人口増加の進み方の方が速いときに、一人あたりの資本は減少する。(略)ある限界を超えて初めて効果があらわれることを「しきい効果」というが、これがその例である。資本蓄積は最低の基準を超えたときにやっと有効に使えるようになる。したがって、ドナーの支援による的確な投資こそが、貧困の罠を打破する最大の武器となる。
貧困について「資本の蓄積」という観点から分析することにより、著者は、貧困問題が純粋に経済学的に(倫理観無しに)観ても、マイナスだということをはっきりと教えてくれる。
これらのデータは最低貧困層が自然資本を使いはたしている現状を見ていないからだ。彼らは木を切り倒し、痩せた土壌を酷使し、鉱物やエネルギーや埋蔵金属を彫りつくし、魚を獲りつくしている。
貧困層が、十分な資本を蓄積できずに、資本を消費・減少させていることが、グローバルな経済上マイナス要因として働いていること、そして、グローバル化がこれだけ進んでいる今、環境問題や資源の枯渇といった観点から、貧困問題を放置しておくのは、先進国を含む世界中の人々にとって有益ではないことを、改めて考えさせられた。
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