映画・レビュー 『異人たちとの夏』


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1988年公開、日本。山田太一の原作を、市川森一が脚本化し、大林宣彦が監督した。主演は風間杜夫、両親役に片岡鶴太郎と秋吉久美子、恋人役を名取裕子が演じている。

夏におすすめの一冊として、山田太一の『異人たちとの夏』の記事を書いてから、映画も観たいなあ、思いながら、いつの間にか、次の夏が来てしまった・・・その間に、監督の大林宜彦の訃報もあった。日本映画はあんまり観ない私なのだが、子供が義実家に泊まりに行っている隙をついて、久しぶりに自宅で映画鑑賞。

大林宜彦の作品は初めて観たが、中々良かった。文学作品の映画化では、忠実に再現しようとしているものよりも、大胆に意匠化、映像化に舵を切った作品の方が好きなのだが、この作品は、小説のストーリーラインは忠実に再現しながらも、映画ではノスタルジックな映像と雰囲気がハイライトされていて、映画作品としてすごく楽しめた。原作は、主人公の中年男性の孤独やニヒルさが際立っている感じなのだが、そのあたりは主演の風間杜夫さんのナイーブさがバッサリ切り捨ててしまう(笑)。その代わりに、主人公の子供時代へのノスタルジーがなんとも切なく情緒溢れて描かれている。

なんといっても、両親役の片岡鶴太郎と秋吉久美子の二人がいい。特に秋吉久美子は当たり役。昨年、原作の方の記事をインスタにアップした時、間違えて幽霊役の恋人女性の方を秋吉久美子、お母さん役の方を名取裕子と紹介してしまい、フォロワーさんから訂正されてしまったのだが、元々のイメージからして、確認もせずに、勝手にキャストを決めてしまった私である。どう考えても、男が敬慕する健気な昭和のお母さん役が名取裕子で、謎めいた蠱惑的な幽霊女性が秋吉久美子だろう。Wikipediaで調べてみると、なんと大林監督も、当初は恋人ケイ役の方に秋吉久美子をキャスティングするつもりだった、とあり、そりゃそうだ!と、自分の勘違いも正当化したくなったくらい。

でもでも、実際に映画を観てみると、秋吉久美子のお母さん、がめちゃめちゃいいのだ。無邪気で若くて鼻血が出そうなくらい色っぽくて魅力的なお母さん。いい大人になった男が、同じくらいの歳のお母さんに子供扱いされる、というこの話の不思議な設定が、生きてくる。こんな色っぽいお母さんがいたら、ドキドキしてしまう男心、でも嬉しくてニヤけてしまう少年心、男の心密かなる憧れを見事に表現している。

風間杜夫のナイーブさがまた良くて、お父さん役の片岡鶴太郎とのやりとりが絶妙だ。冷えすぎたビールを手渡され、冷たすぎるからハンカチで包んで、と息子には心遣いを見せながら、「俺は平気だよ」と素手で掴んで去っていく寿司職人の父親。その時の中年男、風間杜夫の嬉しそうな顔。忘れられないシーンだ。

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