『すてきな三にんぐみ』
作:トミー・アンゲラー 訳:いまえ よしとも 出版社:偕成社
コントラストの美しさが際立つ印象的な絵。ちょっと怖いけど素敵な3人組に、考えさせられるお話です。
《概要》
黒いマントに黒い帽子の3人組は、こわーい泥棒。夜な夜な強盗をしています。ある晩、いつものように馬車に押し入ると、そこには孤児の女の子が一人。3人組は女の子を大事に抱えて隠れ家に戻り、女の子に言われて、奪った宝でお城を買い、国中の孤児を集めることに、、、
《おすすめタイプ》
4、5歳くらいから。全文ひらがなですので、文字を覚え始めた子供の読みはじめにも良いです。
《おすすめポイント》
定番中の定番ですが、とってもお気に入りの絵本です。フランス人絵本作家トミー・アンゲラーの代表作。
絵本のもつ「絵の力」を感じさせてくれる本です。イラストレーターとしても有名なアンゲラー、濃い青の背景の中に、黒の泥棒の影が浮かぶ全体像の中に、黄色の月や、朱色のマサカリのコントラストが見事。三にんの泥棒の山高ぼうや、それに似せた建物の屋根など、フォルムの面白さも楽しめます。三にんのどろぼうは、目しか見えないのでその表情や感情は殆ど読み取れないのだけれど、孤児のティファニーちゃんを運ぶその時だけは、すごく大事に慈しむように抱えているのが伝わってきて、表現力がすごいなあ、と感心します。
絵の素晴らしさに目がいきがちですが、お話の内容がちょっと考えさせられるのもこの絵本の良いところ。三にんのどろぼうは、前半は凶悪な強盗犯に見えるのに、ティファニーちゃんを連れて帰ってからは一転、国中の可哀想な孤児を引き取って育ててあげます。その資金源になったのは、今まで人から奪ってきたお宝、、、これっていいこと?悪いこと?すてきな三にんぐみって、そもそもいい人なの?悪い人なの?少し大きくなった子どもならそういうかもしれません。
この答えはほんと難しい〜ですね。お父さんもお母さんも、答えられないかもしれません。でも、子どもにとって、その「わりきれなさ」も時には大切かな、と思います。強盗犯が盗んだお金で慈善事業をする、とか、それをいいことに国中から孤児が集まってくる、とか、この辺りはフランス人らしいシニカルさというか、社会批判的な視点も盛り込まれているなあ、と思います。確かに、泥棒はいけないことなのだけど、国中の見捨てられた孤児というもう一つの「社会悪」は、一体どうするべきなのか、、、今の日本だって「赤ちゃんポスト」というのがあるのよ、なんて話もしてみたり。
デザインのセンスだけでなく、「この世界は一筋縄ではいかないのかも」というちょっと複雑な感情も刺激される。「とっかかり」と「広がり」のバランスが素晴らしい名作だと思います。
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