書評・小説 『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』 辻村 深月


母娘もの、ということで、面白そうだったので読んでみた

実際には、母娘の葛藤だけでなく、女同士の友情というか友達関係みたいなところがかなり濃密に描かれていた。母娘の関係というのも、結局1つの女同士の関係であり、女の嫉妬やら自立やら絡んでいるのだから、という作者の意図はよくわかるのだが・・・それにしても、自分が余りにこういう女同士の友達関係やそのルールみたいなところに感情移入できないので困ってしまう。リアリティがない、というのではなく、きっとリアリティはあるのだと思うが、それにしても感情移入できないし、こういう女友達同士の超ウェットな関係は、「ほんとにここまで考えるかー?」と、自分とは違う世界のことのように感じてしまう。親子関係云々以前に、だから自分には女友達が少ないのか、と改めて合点してしまった私であった・・・

作者の論調からすると、地方でそのまま高校や短大を出て地元の企業の派遣職をしながら結婚をゴールと思い定め社会から隔絶されているような「普通の女の子」の気持ちなんて、私のような人間にはわからない、ということになるのだろうが、その通り、余りよくわからない。社会的な格差が歴然とあることは百も承知だが、母娘の呪縛から逃れられないことは、学歴が無いとか外の世界を知らないとか、社会的な格差だけに還元できるようなものでもないと思う。むしろエリート家庭での母娘の葛藤がすごかったりするし、この小説の舞台となっているようなところからエリートでなくても自立して飛び立っていく女性も何人も知っている。結婚して子供を産めば、母娘の葛藤が解消するような一方的な書き方にも、そんな甘いものではないのでは???という疑問が残るし。まあ、作者が若いから仕方ないのかしら・・・

ただ、主人公を小さい頃虐待していた母親が、大人になってから街でふと見かけた娘の姿に向って疑いなく走ってくるシーン、娘を囲い込み全てを指図してきた母親が、自分の全財産の銀行口座の暗証番号を娘の誕生日に設定していたことが、娘に殺されて初めてわかるシーン、のところはグっとくるものがある。母というものの偉大な矛盾と愚かさの前に、全ての娘が沈黙させられてしまう、このシーン。こういうところを描いたことで、この作品の格調がぐっと高まっているような気がした。

いずれにせよ、自分も含めて、母娘というものは死ぬほどめんどくさいものである。

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