『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大読書』をお得に読むには
出ました、最近よくある、東大のブランド力を全面に押し出したこのタイトル(笑)
育児本ではないですが、教育の観点から読んでみた本は勝手にこちらに分類することにしました。
著者が現役東大生で、東大で書評誌の編集長をしているらしいのですが、冒頭から
《周りの東大生たちもみんな、僕が発見したのと同じような読み方をしていた》《東大生は何事においても「受け身」を嫌う》
と、まるで自分が東大代表のような、主観的な意見が散見されます。だからと言って、きちんと東大生一般に統計を取ったり分析したりしたわけでは全くない。「東大」ネームについては、ただの客寄せとして使われているので、その辺りはよくよく承知して読む必要があります。当たり前ですが、東大生の大多数がこんな読書術を実践しているわけでも(少なくともそれが統計的に証明されているわけでも)、この読書術によって東大に合格できるわけでもありません。そもそも、この著者が東大生データの元にしているらしき《東大で45年続く書評誌『ひろば』》について、私自身は見たことも聞いたこともなかったし、文学部の私がそうなのだから、その存在を全く知らない東大生は多いと思います。
で、東大については殆ど関係ないな、という感じの内容ですが、中身としては、オーソドックスな「読書術」「アウトプット術」「記憶整理術」を著者なりにミックスし、分かりやすくまとめられています。
「〜読み」という名称で、順を追って読み方について説明していますが、大きく分けると「効率良く読む」と「深く読む」の2つの方法に分けることができます。
「効率良く読む」ための方法として推奨されているのが
- 「装丁読み」 あらかじめ本の概要を推測、仮説を作ってから読む
- 「取材読み」 著者の感情や意図を推測死、質問しながら読む
- 「整理読み」 本全体の構成や論理展開を追いながら要旨を整理する
また、「深く読む」ための方法として推奨されているのが
- 「検証読み」「パラレル読み」 似たテーマの本を2冊以上同時に読んで、記憶や知識を定着させると共に、多面的な思考力を育む
- 「クロス読み」 複数の本を読んでいく中で議論が分かれる「交錯ポイント」を見つけて検証することで、読解力と思考力を高める
- 「議論読み」 自分なりの要約を作る、仮説や質問との整合性を検証するなどしてアウトプットをする
といったところになるでしょうか。
まあ、この手の「読書術」は読書好きの人からすると「そんなこともうやってるよ」「いいから好きに読ませてよ」という感じもあるんですけども(笑)ただ、あらかじめ想定される要旨や疑問に思ったことなどを付箋にまとめておく、とか、面倒くさい気もしますが、読みづらくて長い本には、こういう手法を取り入れてもいいのかな、と思いました。
個人的に印象に残ったのは、記憶と知識に関わる部分で
例えば、「検証読み」の重要性について説明したところで、心理学者のヘルマン・エビングハウスの「エビングハウスの忘却曲線」について触れていて
実は、ただ復習するよりも、別の角度や別の視点・別の文章で出てきた、いわば「未知の情報」の中に「何度も見ている情報」があったほうが、海馬は「重要な情報だ」と判断しやすいのです。「新しい角度からの復習」のほうが効果があるということです。
まったく同じ情報でも、違う場所・文脈の中にあったほうが、記憶に残りやすいんです。
これは、受験の勉強方法などでも活用できる部分です。
『「灘→東大理Ⅲ」の3兄弟を育てた母の秀才の育て方』の「佐藤ママ」や『強烈なオヤジが高校も塾も通わせずに3人の息子を京都大学に放り込んだ話』の「おやじ」が実践していた勉強法も、例えば「るるぶ」や実際の旅行で地理の知識を、とか、漫画や映画作品で歴史の知識を、補強しています。同じパターンの問題や勉強法の繰り返しではなく、受験で問われる知識を全く違う文脈に置いて学習させると、記憶が定着し、点や線でなく面的な知識となって、結果として安定的かつ重層的な知識が身につく、というわけです。
また、著者はこんなことも言っています。
突然ですが、みなさんにとって、本を読んでいていちばん楽しい瞬間はどんなときですか?
知的好奇心がくすぐられる内容に出会ったときでしょうか?それとも、日常生活の疑問が解消されたときでしょうか?
僕の場合は、「前に読んだ内容と似た1節を見つけたとき」です。
「あ!この意見は、あの本でも読んだことがあるぞ!」「この話って、あっちの分野だけの話かと思ってたら、この分野でも応用されているんだ!」のように、別の本の内容に共通点を発見したときがいちばん楽しいと感じます。
周りの東大生に聞いたところ、多くの人が僕と同じように「共通点を見つけた瞬間が楽しい」と言っていました。
「周りの東大生に聞いたところ」というのがいちいちうるさいですが(笑)、これは、教養主義とか、リベラル・アーツ的な考え方に共通する「楽しさ」だと言えます。もしかしたら、こういうものを人間が「楽しい」と感じるのは、脳の記憶の仕方と関わりがあるのかもしれませんね。そして、脳の記憶の仕方とか、「共通点」や「関連性」を見出す働きというのは、人間の脳が保つ根源的な力の一つのような気がします。おそらく、コンピューターがそういった微妙な「関連性」や「類似」を認知するのは非常に難しいと思われるからです。
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