レビュー・映画 『4ヶ月、3週と2日』


2007年公開、ルーマニア制作。監督は、クリスティアン・ムンジウ。チャウシェスク大統領独裁政権末期のルーマニアで、一人の女子大生が、望まない妊娠をしたルームメイトの違法中絶手術を手助けする一日を描いた物語。第60回カンヌ映画祭で、並み居る有名監督の作品を押さえて、パルム・ドール賞に選ばれたことで一躍話題になり、ヨーロッパ映画賞、全米映画批評家賞など数々の賞を受賞した。
実は私、あまりこの作品よくわからないまま観てしまったのだ。TSUTAYAの店頭での紹介では、「ミステリー・サスペンス」にカテゴライズされ、「最後まで目が離せない」とか「衝撃の結末」みたいなことが書いてあったので、てっきり、ハラハラドキドキのサスペンスものみたいなのかと思って、DVDを借りてきてしまった。
見終わって、く、くら~い。そして、お、おも~い。
私的には「ハラハラドキドキ」という感じは全然しなくて、むしろ淡々とした、ドキュメンタリータッチの映画のように感じた。
はっきり言って、見終わった直後は、やや観たことを後悔するくらい後味の悪い映画だった。
でも、翌日になってじわじわとこの作品の良さ、と言うか、重さが感じられるようになってくる。
特に印象的だったのは2つ。
①独裁政権時代のルーマニアの姿
ルーマニアは、多くの日本人にとって、非常に遠い存在だと思う。共産主義の時代が長く、
気楽に旅行ができるような国でもなかった。
「4ヶ月、3週と2日」では、当時のルーマニアの国の実情が、生々しく伝わってくる。
大学寮のくらーい電灯や「今日はお湯がでてる?」という学生どうしの会話。予約した
はずのホテルには予約が通っておらず、その上にべもない受付係の対応。マルボロやケントなどのアメリカ製品が当然のように裏取引されている様子、灰色の空、ぐずぐずの道路、いかにも社会主義国にありそうな小型で使い勝手の悪そうな車など・・・
これは1980年代後半の設定だから、それから30年余り経って、どのくらい
ルーマニアが変わったのかわからないが、ある意味、想像通りの共産主義国家。でも、細かく具体的な生活や街の様子を見るのは、また違った趣がある。
②中絶ということのありのままの姿
この作品は、ルーマニアの非合法中絶手術のありのままを描いている。
ヒロインとルームメイトが必死でかき集めたお金は、モグリの医者に全然足りないと一蹴され、差額分として、その場でかわるがわる医者の相手をさせられる。
ヒロインが彼氏の母親のバースデーパーティーに顔を出し、ホテルに戻ってくると、バスルームにはタオルで包んでゴミのように床に捨てられた胎児の姿がある。
「せめて投げ捨てたりしないでどこかに埋めてあげて」という友達の言葉に頷いて、ヒロインは、タオルにくるんだ胎児をバッグに詰めて出かけるが、結局どうしようもなくて、ダストシュートに投げ捨てる。最後にホテルに戻ってきたヒロインは、レストランに友人の姿を見つけ、何か注文しようとするが
そこに「パーティー用料理です」と言って、ウェイターが肉の塊やレバーのグリルを持ってきて、2人とも無言になったところで映画が終わる。
ああ、改めて振り返っても重過ぎる・・・

この映画が、「中絶」というものをものすごくリアルに描いていることは事実だ。例え日本の近代的な清潔な病室でたった数時間で行われたとしても、この映画の中にある中絶ということの生の姿は、こういうことなのである。

あと、中絶される本人であるヒロインのルームメイトは、本当にうじうじしている癖に厚かましくて、女の共感を呼ぶ度ゼロなのだが、この友達のために、自分の体まで差し出して頑張ってあげるヒロインの心境が、普通の日本人女性には余り理解できないのではないか。
どうしてそこまでしてやるんだろう?と。
でも、虐げられ、抑圧されている女性たちの社会って、こういうものなのかもしれない。それは友情とかいう生易しい感情ではない。すごい強烈な連帯感というか、同士意識というか。たぶん、どんなにしっかりしているように見える女性でも「明日は我が身」的な追い詰められ方が、こういう強烈な連帯感を生むのではないだろうか。
終わった後、繰り返し、じわじわと、考えさせられる映画だ。

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