『おまえうまそうだな』作:宮西 達也出版社:ポプラ社
ハッピーエンドではないお話で、子供の心に深く印象を残してくれる、宮西達也「ティラノサウルスシリーズ」の代表作。
<概要>
中国や韓国でも翻訳出版されている、宮西達也「ティラノサウルスシリーズ」の代表作で、2010年には映画化、テレビアニメ化もされている。
いたるところで火山が噴火し、恐竜が歩き回っている大昔。乱暴者のティラノサウルスは、偶然卵から生まれたばかりのアンキロサウルスの赤ちゃんに出会います。ところが、「おまえ、うまそうだな」と近づくティラノサウルスに、アンキロサウルスの赤ちゃんは「おとうさーん!」としがみついてきます。生まれて初めて見て話しかけてきたティラノサウルスを、自分のお父さんと勘違いし、自分の名前を「ウマソウ」だと思い込んでしまったようです。
ティラノサウルスはアンキロサウルスの勘違いを直すきっかけを掴めず、そのまま二人は一緒に暮らし始めることに。本当のお父さんのようにアンキロサウルスにいろいろなことを教えてあげるティラノサウルス。でも、肉食と草食、種類の違う恐竜同士の二人がずっと一緒にいることはできません。ティラノサウルスは別れを決心して、最後に「優しい嘘」をアンキロサウルスについて、彼を仲間の元に戻してやります。
<おすすめタイプ>
文章が長くなるので、ストーリーを楽しめる3、4歳くらいになってからがおすすめ。微妙で複雑な心理も描かれるので、男の子だけでなく、女の子にも読んでもらいたい。
<おすすめポイント>
まず、絵が漫画タッチの少し変わった絵なので興味を惹きます。「東大卒ママの子供に絵本をえらぶポイント4つを紹介」の記事で、《せっかく絵本を読むのなら、いつもと全然違う絵を見せてみる、というのも大事だ》と書きました。お気に入りのシリーズやキャラクターを持つのも良いのですが、小さい頃は、機会を捉えていろんなタイプの絵に触れさせる、といいと思います。宮西達也さんの絵は、ちょっと独特で、いわゆる「名作絵本」というヴィジュアルとはかけ離れていますが、漫画を思わせる効果音の挿入やユーモラスな画風に、興味を持つ子も多いのではないでしょうか。
絵本に興味を持つきっかけとなる「取っ掛かり」ですが、恐竜好きな男の子でしたら、もちろん恐竜です。子供恐竜界では、「ティラノサウルス」と「アンキロサウルス」どちらも超メジャー選手ですから、きっかけには十分。
恐竜好き=男の子、というイメージがどうしても先行しがちですが、女の子だって恐竜に興味を持つ子はいっぱいいます。動物や虫など、生き物に興味を示すのは性別関係無いですし、恐竜だけでなく、「火山の噴火」とか「古代の世界」とかに興味を示す、というパターンもあります。
そもそも、あまり小さいうちから、男の子はこう、女の子はこう、と性別のイメージで遊びや興味を限定してしまうのはとてももったいないことです。友達のママさんと話していると、まだ3、4歳なのに「同性の友達がいない」とか「同性の友達と遊ばない」とかいうことを気にしている人がいて、ちょっとびっくりします。私自身、兄2人いて3番目、という兄弟構成だったので、大きくなるまで男友達ばかりと遊んでいましたし、もう7歳になる上の娘も、3、4歳の頃はりかちゃん人形など見向きもせず、車やトーマスのおもちゃで遊んでいました。幼稚園や学校で、子供たちの社会的な付き合いが広がっていくと、いやでも、周りから「男の子はこう」「女の子はこう」というイメージの影響を受けてきます。だからこそ、小さいうちはできるだけ、ジェンダフリーで、その子の自然な興味を尊重して遊ばせてあげたいと思います。おもちゃを買うとなると、ついつい「後々まで興味を持って使えそうなものを」と思い、男の子用、女の子用と単純思考に陥ってしまいがちですが、絵本なら、もっともっと自由に興味の幅広さを試していけるのも好きです。
話が脱線してしまいましたが、この絵本の一番のおすすめは、なんといっても、単純なハッピーエンドではないラストに深みがあって、子供の心に「?」を残してくれるところ。そこから大きな「広がり」が生まれます。このティラノサウルスシリーズが人気なのは、小さな子供向けの絵本には珍しく、いつもお話が寂しかったり悲しかったりする結末になっているからでしょう。「ティラノサウルスはどうして最後に嘘をついたんだろう?」「アンキロサウスは離れたくないって言っていたのに、どうしてティラノサウルスは行ってしまったんだろう?」、たとえ、そこまで明文化できなかったとしても、子供の心に「もの寂しさ」や「わりきれなさ」が残ったとしたら、それは大きな成長の一歩だと思います。
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