書評・小説 『旅のラゴス』 筒井 康隆


禁じられるほどやってみたくなるのが人間の性分と言うもので、コロナウイルスのせいで飛行機や船にも乗れないとなると、がぜん旅行に行きたくなる。仕方ないから、「旅」をテーマに本を探していたところ、SNSでも度々紹介されていたこの本に出会った。

筒井康隆の作品は殆ど読んだことがなくて、SFなんて全く守備範囲外ではあるが、読んでみたら中々面白かった。

1984から1986年までSF雑誌に掲載、86年に単行本として出版、という古い本だが、なぜか年前に突然文庫版の売れ行きがグンと伸びて、話題になったらしい。結局、それは「ジブリが映画化を申し出たのに筒井康隆が断った」という謎のフェイクニュースのせいだった、というオチ。・・・しかし、こういうフェイクニュースってほんと、誰が何の得を求めて流すんでしょうね。

それはともかく、物語は、主人公ラゴスが、まるで中央アジアあたりの遊牧民と共に草原を旅しているかのような出だしだが、しばらくするといきなり、「転移」という一種のテレポーテーションが始まる。設定は架空の星、顔を自由に変えられる男、壁を通り抜けられる男、空中に浮かぶ少女、などなど、お伽話のような不思議な力を持った人々がどんどん登場する。実はこの星は、地球(とおぼしき星)から文明人が逃れてきて住み着いたところで、ラゴスは、自分たちの遠い祖先である彼らが初めに着陸し、膨大な書物を残したとされる、大陸の果ての果てを目指しているのである。

だからこれは、架空の世界の物語なんだけれど、今の地球の私たちの歴史とどこか繋がっていて、だからこそ、遥か未来という設定なのに、古い歴史を辿っているような不思議な感覚がある。実際の歴史と共に、魔法や神話が共存する世界観。映画『スター・ウォーズ』シリーズや、世界的に大人気のHBOドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』なんかと共通するものがあると思う。こういうのって、特に男性にはたまらない魅力なんでしょうね。私も嫌いじゃないですが(笑)

ストーリーも、始めこそ地味な旅をしているが、人攫いに捉えられて奴隷にされるわ、そこで立身出世するものの内縁の女を捨てて脱走するわ、最果ての国で長年研究を続け王になるわ、その後また故郷に帰る途中で人攫いに遭い、無一文の奴隷となって帰郷するわ、まあ、とにかく波乱万丈である。しかし、その壮大なスケールとやたらドラマティックな展開に対し、主人公のラゴスの語り口が終始淡々として冷めてるのがまた良い。

主人ラゴスは栄誉を求めない、ただ純粋に「知」を求める人物なのである。だからあらゆる人間もドラマも、彼の中を通ってまた過ぎ去って行く。そしてまた、彼の人生自体が「旅」である、というテーマもこの物語にはある。だけど、それ以上哲学的な思索に深入りするわけではない。そんな、敢えてさらっと流したところも、この物語の魅力の一つだと思う。

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