書評・小説 『土曜日』 イアン・マキューアン


現代作家で次の作品を読むのが楽しみな作家の一人。

タイトル通り、午前4時の突然の目覚めから始まった、中年の脳神経外科医の男にとってのある土曜日の刻一刻を、濃密に描く。ロンドンに住むある中年男の土曜日一日を描くことで、現代に生きる人々の不安や不条理、戦争、社会的格差、家族、孤独、老い、ジェネレーション・ギャップ・・・あらとあらゆる要素が、この物語の中に凝縮されている。作品の中で、才能ある若き詩人である主人公の娘が、アンナ・カレーニナボヴァリー夫人について述べているように、まさに「神は細部に宿る」ということを体現している。

イアン・マキューアンの語り口は、いつもとても濃密なので、読者はストーリー展開と溢れるディティール描写に巻き込まれて、小説を読む陶酔感にどっぷり浸れる。何と言うか、小説らしい小説を読む楽しみ、みたいなものがあるのだ。

この作品は、特に全体の濃密なディティール描写にうっとりとさせる一方で、ストーリーは何となく不穏なものを含みつつゆっくりと進行し、結末では突然、スリリングでスピーディな展開をするという見事なテクニックが心憎い。作者の意図通りで少々癪なくらい、その鮮やかな対比が読者の心を打つ。

マキューアンの作品を読むのは、贖罪『初夜に続いて三作目だが、翻訳されている長篇ものは是非とも全部読んでたい、という気にさせられた作品だった。

〈参考〉

江國香織さんの書評はこちら

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