面白かった〜。日本文学の評論家としても著名な丸谷才一が書いた、源氏物語へのオマージュのような不思議な長篇小説。
表題の『輝く日の宮』とは、『源氏物語』で、桐壺の巻のあとにかつて存在したが失われてしまったとされる巻の名前を言うのだそうだ。(「桐壺」の異名など諸説あるが)この失われた巻を巡る推理小説のような展開、現代に生きる主人公杉阿佐子の半生を辿っていく展開、それをまるで紫式部の生涯になぞらえるような描き方・・・など、幾重もの仕掛けが何重にも重なって複雑な構成になっている。
さらに、泉鏡花風のロマン的な小説から始まり、情緒の全くない記録的文章で現代史を辿ったかと思うと、急に戯曲風の文体になってみたり、エッセイ風になってみたり、文体や語り口や形式も様々に変化する。まあ、とにかく芸達者ですね、センセイ、という感じ。こういうものを駆使していることの凄さが、やはり当代では考えられないほど斬新な手法や表現法を用いて書かれた『源氏物語』の凄さへの、そのままオマージュになっているのである。
さすがに、具体的に『輝く日の宮』の喪失理由や内容を推論する後半は『源氏物語』を全巻読んでいないと少々辛いだろうが、全体としては、色々な文化的・古典的エピソードを散りばめた現代風の小説になっていて、それだけでも十分読み応えがある。
「源氏物語」は、高校生の時に自宅にあった円地文子訳で全巻読んで、当時暫く、もののあはれを感じる際には思わず一歌詠みたくなるほど雅な王朝文化に浸ってしまった記憶があるが(詠めないけど)、久しぶりにまた読んでみたくなった。(でも読みだすと長いしな・・・)
それにしても、「輝く日の宮」の伝説は知らなかったが、確かに六条御息所と朝顔の斉院については、突然出てくるのでしばらく二人を混同したりして、妙だな、と思った記憶ははっきりある。これが作者の意図的な喪失なのか、意図せざる喪失なのか・・・とっても知りたいが、いつまでも謎のままの方が面白いような気もする。。。。。。
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