書評・小説『恋にあっぷあっぷ』 田辺 聖子


Amazonでまとめ買いしたから良いものの、書店では思わず手にとるのが躊躇われるようなタイトルの「おせいさん」こと田辺聖子お馴染みのラブストーリー。田辺聖子によくあるパターン、別に不満もないのんびりとした主婦が、外に働き出るうちに自分の魅力や才能に目覚めて、恋すると同時に自立していく・・・といった話。

ストーリー自体はどうってこともないのだが、関西風の美味しそうなお料理の数々、芦屋あたりのハイソで上品な街の雰囲気、六甲山にあると思しきしっぽりとした風情の別荘、「そんな金持ちで魅力的なオッサンどこにおるねん!」と関西ツッコミしたくなるような関西風情漂う素敵な中年オヤジ・・・など、もはや水戸黄門やサザエさんに近い「お決まりパターン」には心地よい安定感がある。

読んで何が得られるというものでもないが、六甲山上から夜景が見られる別荘風のレストランに食事に連れていってくれて、女性が気負って着てきたドレスでは、ちょっと夜風が肌寒いことを察すると、その場でミンクの毛皮のケープを買ってプレゼントしてくれて、「人にモノをやるというのは力量に恵まれている人だけができることであり、与えることなんか神様でしかできないのだから、拝んでやっともらっていただくだけなのだ」などとさらっと言う男性、もはやユニコーンのごとき空想上の生き物としか思えん・・・などとブツクサ言いながら、賀茂なすの田楽とか鱧の照り焼き、蕗のたいたの、など、関西風のお料理を美味しそうだなあ、なんて思って、読後にいそいそ自分でもお料理してみたりするのは、大変良い気晴らしなのである。

《私の一大欠点は、「人を喜ばせるのが大好き」という点だったのだ。それでいて私自身を喜ばせることをしなかったんだもの。

私は自己犠牲というような意味ではなく、ヒロシを喜ばせることが私の喜びだったのだ。それは愛に似てるけど、愛ではなかった。なぜって自分のないところに、愛はないもの。そう悟ったとき、私の眼に涙があふれた。》

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