ブッカー賞(The Booker Prize)


ブッカー賞は、イギリス連邦およびアイルランドで出版された長編小説に与えられる文学賞。ノーベル賞と並び、世界的に権威ある文学賞の一つとして有名だが、設立は1968年と比較的新しい。

歴史は浅いながらも、ノーベル賞やフランスのゴンクール賞と並ぶ世界的権威ある文学賞となった理由の一つに、その選考基準へのこだわりがある。選考委員は、作家だけでなく、文芸評論家や大学教授、引退した政治家や文学好き芸能人など様々で、しかも毎年選考委員が変わる。選考委員の透明性について、昨今ノーベル文学賞が問題となっていることを考え合わせると、これは非常に賢明だと言えるだろう。しかも、通常の文学賞は選考委員が最終候補作品しか読まないことが多いのだが、ブッカー賞の場合は、選考委員が百冊以上ある候補作を全て読むことを前提としていると言う。毎年、多岐にわたるジャンルの選考委員を選出し、なおかつ、その各界で権威ある選考委員達に百冊以上の候補作を読んでもらって候補作を絞っていくというのは、運営サイドとしては大変な労力を必要とすると思われる。しかし、その選考過程の厳密さが、ブッカー賞受賞作の極めて高い質を担保しているのだろう。

まず一次選考に残った作品を「ロングリスト」、その後最終選考に残った作品を「ショートリスト」として、その選考過程を公開しているのも、話題性を募る面白い仕掛けとなっている。

フランスのゴンクール賞のような賞をイギリスにも導入したい、との思いから、イギリスの小売業者ブッカー・マコンネル社の後援のもと、ブッカー・マコンネル賞として創設された。初代の受賞作品は、P.H.ニュービイの『Something to Answer for』(1969年)。2002年からは、投資会社のマン・グループがタイトルスポンサーとなり、名称はマン・ブッカー賞(The Man Booker Prize for Fiction)に変更。さらに、2019年には、スポンサーがアメリカ人の実業家マイケル・モリッツとなり、名称は現在のブッカー賞(The Booker Ptize)に再度変更された。

これとは別に、国際ブッカー賞(The International Booker Prize)があり、こちらはイギリス連邦およびアイルランドで英語で翻訳され出版された外国文学作品が選ばれる。以前は、ロシア・ブッカー賞と呼ばれ、翻訳作品限定ではなく、世界文学に大きな貢献をした作家自身に与えられていて、ノーベル文学賞の位置付けに近いものだった。しかし、2016年から変更され、現在では前述の通り、翻訳作品を対象としているため、作家と共に翻訳者も表彰され、賞金も等分される、というのが面白い。(このように翻訳者と原作者を平等に表彰する、という文学賞に国際ダブリン文学賞がある)日本の小川洋子の『密やかな結晶』が最終候補作に選出されたり、韓国の女性作家韓江氏の『菜食主義者』が2016年位受賞していたりして話題になっているのは、こちらの方である。ブッカー賞、国際ブッカー賞共に、何度か名称や対象基準が変更になっていて複雑なので、注意が必要だ。

『世界の8大文学賞』で、主編者である都甲幸治氏が「個人的に一番信用している文学賞」「当たり作品の宝庫」とブッカー賞のことを説明しているが、私自身もまさにそう。受賞作で既読のものは以下の通りだが、いかめしく重厚な文学作品というのではなく、エンターテイメント性も兼ね備えた読みやすい文学作品が選ばれている。必ずしも主題が重かったり、文学的に前衛的な趣向である必要はなく、重たさや複雑さをソフトにエンターテイメント性も残して表現し切る「文学的技巧」というものに、重点が置かれているように思う。一作家が一回だけ受賞するのではなく、良いものを書けば何回でも受賞できる、というスタンスなので、ピーター・ケアリー、J・M・クッツェー、ジェイムズ・G・ファレル、ヒラリー・マンテルなどの作家は、複数回受賞している。

目次

既読受賞作リスト

  1. アニタ・ブルックナー『秋のホテル』(1984年)
  2. カズオ・イシグロ『日の名残り』(1989年)
  3. マイケル・オンダーチェ『イギリス人の患者』(1992年)
  4. ロディ・ドイル『パディ・クラーク・ハハハ』(1994年)
  5. イアン・マキューアン『アムステルダム』(1998年)
  6. J・M・クッツェー『恥辱』(1999年)
  7. アラヴィンド・アディガ『グローバリズム出づる処の殺人者より』(2008年)
  8. ヒラリー・マンテル『ウルフ・ホール』(2009年)

*歴代の受賞作一覧については、Wikipedia「ブッカー賞」の項目「受賞作一覧」か、ブッカー賞財団のHPを参照

参考

  1. 『世界の8大文学賞 受賞作から読み解く現代小説の今』 都甲幸治他
  2. ブッカー賞HP(thebookerprizes.com)はこちら
  3. Wikipedia 「ブッカー賞」(日本語版)はこちら
  4. Wikipedia 「Booker Prize」(英語版)はこちら
  5. 朝日新聞DIGITAL 「小川洋子さん 英国、ブッカー国際賞の最終候補6作品に」 はこちら

Follow me!


よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次