名古屋市美術館のマリー・ローランサンとモード展に行ってきた。今年2月の東京のBunkamuraザ・ミュージアムを皮切りに、4~6月に京都市京セラ美術館、7~9月に名古屋市美術館を巡回している。
マリー・ローランサンは以前から好きな画家で、長野県蓼科高原にあるマリー・ローランサン美術館にも足を運んだことがある。蓼科にあったマリー・ローランサン美術館は、日本のタクシー会社グリーン・キャブが保有する世界最大のマリー・ローランサンコレクションだ。避暑地にひっそりと佇む趣ある美術館だったが2011年に閉館し、その後東京のホテル・ニューオータニに移動、現在はコレクションは一般公開されていない。(参考:Bunkamura-マリー・ローランサン美術館館長が語る、ローランサン作品の魅力)
マリー・ローランサンは日本人に人気がある。宗教色が無く、柔らかな色調で装飾的でロマンチック。同じエコール・ド・パリの画家シャガールが人気があるのと似ているかもしれない。そのせいで、マリー・ローランサンの絵画と言うと、どことなく表層的と言うか、バブル時代の日本に飾られているみたいなイメージが私の中で出来上がってしまっていた。
マリー・ローランサンは詩人アポリネールと恋人であったことで有名なように、モンマルトルにあるアトリエ「洗濯船(バトー・ラヴォワール)」(Le Bateau-Lavoir)で活躍したジョルジュ・ブラックやパブロ・ピカソとも交流があった。彼女の構図の中には、はっきりとキュビズムの影響がみられる。もちろん、そういった特定の流派や運動から逃れて、彼女独特の幻想的なイメージを貫いた、「エコール・ド・パリ」風画家の特徴もある。
マリー・ローランサンとモード展は、そういった美術的な解釈はさておき、室内装飾家や舞台芸術家としても活躍した彼女のマルチな才能に焦点をあてたものだ。これは新しい試みで、バレエの流行に代表されるような当時のヨーロッパの「総合芸術」的な視点が投影されていて面白い。さらに、マリー・ローランサンと同時代にパリで活躍したココ・シャネルを取り上げ、当時のパリのモードや華やかな女性たちの活躍にもスポットをあてている。
個人的には、マリー・ローランサンの室内装飾やバレエの舞台セットのデザイン画などが初めて鑑賞できて興味深かった。彼女のセンスの秀逸さが際立つようなデザイン画だ。それから、1920~30年代にかけて、ココ・シャネルの服を着た社交界の女性たちをマン・レイが撮影した映像が流されていたのが圧巻であった。パリの名家出身のマリー=ロール・ド・ノアイユやイギリスの名門汽船会社の令嬢ナンシー・キュナードといった顔ぶれはもちろん、アメリカの作曲家コール・ポーターの妻であるリンダ・リー・ポーターといった新興国アメリカの大富豪や、革命から逃れてパリに住んでいたいロシア大公妃マリア・パヴロヴナなど、当時の国際色豊かなパリの姿が偲ばれる。
ココ・シャネルとマリー・ローランサンは実際に交流が合って、シャネルがローランサンの絵を突っ返したとか、ローランサンがシャネルを田舎娘呼ばわりした、とか言うエピソードも紹介されているが、まあ、そのへんは展覧会企画向けの宣伝もあるから、多少割り引いて聞いておいた方が良いかもしれない。ただ、マリー・ローランサンを当時のパリのモードという視点で見直した点は興味深く、最後に、カール・ラガフィールドがマリー・ローランサンのイメージでデザインした2011年のシャネルのオートクチュールコレクション映像を展示に持ってきたのも、まとめとしては実に上手くできていたと思う。
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[…] れど、非常に見ごたえがあって面白かった。先日鑑賞した名古屋市美術館の「マリー・ローランサンとモード展」でも、ドレスなどの展示があって面白かったが、服飾品は細部まで鑑賞で […]