イブ・サンローラン展に行ってきた。場所は、東京都の六本木にある国立新美術館。2008年のイブ・サンローラン没後としては、日本最大の展覧会である。12月11日までの開催だが、巡回の予定はまだ決まっていないようだ。
美術系の展覧会にはよく脚を運ぶが、ファッション業界やオートクチュールの世界は全く無知なのでどうかな、と思ったけれど、非常に見ごたえがあって面白かった。先日鑑賞した名古屋市美術館の「マリー・ローランサンとモード展」でも、ドレスなどの展示があって面白かったが、服飾品は細部まで鑑賞できるので美術館で鑑賞するにはうってつけだ。カットの繊細な美しさや、布地やビーズや宝石のテクスチュアまで、実物を見てこその迫力が伝わってくる。
イブ・サンローランは、わずか19歳でクリスチャン・ディオールに就職し、ディオールが急逝すると、21歳で主任デザイナーとして頭角を現した。とにかく早熟の天才なのである。展覧会では、ディオールが子供の頃に手がけた絵本の装丁や挿絵なども展示されていた。
21歳でディオールの後継者として華々しくデビューしたイブ・サンローランだが、その数年後にはアルジェリア独立戦争でフランス軍に徴兵されてしまう。彼のような繊細なアーティストが軍隊経験に耐えられずはずもなく、精神を病んでしまうのだった。精神病院から復帰したイブ・サンローランは、生涯の恋人となる資産家のピエール・ベルジェの力を借り、自身のオートクチュールブランド「YSL」を立ち上げた。
ちなみに、オートクチュールとは、オーダーメイド一点もの洋服のことで、パリのクチュール組合に加盟した店のみがオートクチュールメゾンとして名乗ることを許される。高級でも既製品であるプレタポルテラインとは一線を画す存在なのである。とは言っても、一点ものの超高級ドレスでは採算が合わず、オートクチュールを終了するブランドは多い。イブ・サンローランが立ち上げた「YSL」も、彼の死と共にオートクチュールラインを終了した。現在でもオートクチュールを続けているのは、クリスチャン・ディオール、シャネル、ジバンシーなどの限られたブランドだけである。
展覧会はブランドのアイコニックな作品から、アフリカやアジアのテイストを取り入れたユニークなドレス、舞台芸術のデザインから華やかなジュエリーやウエディングドレスに至るまで、イブ・サンローランの溢れる才能がこれでもかと伝わってくる内容だった。
中でも私が個人的に興味を惹かれたのは、後半に展示されていた「アーティストへのオマージュ」コーナー、イブ・サンローランが画家や作家などのオマージュとしてデザインした作品の数々だ。パブロ・ピカソへのオマージュという、ちょっとスペイン風だったりピエロ風だったりするドレスも面白いし、アンリ・マティスの作品からイメージした鮮やかなブルーのドレスも素敵だった。中央を飾るのは、ジョルジュ・ブラックの鳥のモティーフを使ったなんとも愛らしいドレス。
引用元:PART NOUVEAU
イブ・サンローランは、ココ・シャネルと並ぶ天才デザイナーとして、フランスでは書籍や映画の題材として何度も取り上げられている。イブ・サンローランを主人公とした映画は3種類もある。私はまだ残念ながらどれも観れていないので、また機会があれば是非鑑賞したいと思う。
- 「イブ・サンローラン(ドキュメンタリー)」(2010年/フランス/ピエール・トレトン監督)
- 「イブ・サンローラン」(2014年/フランス/ジャリル・レスペール監督)
- 「サンローラン」(2015年/フランス/ベルトラン・ボネロ)
【参考】
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