海野弘のエッセイ集。
海野弘は、アール・ヌーヴォー、1920年代、シネマ論など興味深いテーマが満載で、高校生の頃ハマってよく読んでいた。
そういう複合的なテーマを自由に軽やかにある種デカダンに論じるのが彼の魅力なんだけど、ちょっとその軽さやデカダンスが鼻につく感じもあり、長らく手にとっていなかった。
久しぶりに読んでみて、それなりに(昔よりは)積み重なった知識が、自由に広がって刺激されるのがとっても楽しかった。
雑誌掲載されたショートエッセイなどをまとめたものなので、テーマはそれこそ多岐に渡るのだが、繰り返し出てくるのは、プルースト、ヴィスコンティ、文学と映画の違い、ヘミングウェイ、書斎や書机や絵画の中に表現される書物などの歴史を辿ることで見えてくる「エクリチュール=書くこと」の変化、などなど。
1920年代のパリをキーワードに、ヘミングウェイやピカソやコクトーが繋がっていくのはいつ読んでもワクワクする。
シネマ論や書斎論で出てくるインテリア解説もまた面白い。
と思ったら、突然ディケンズ論や日本近世の俳諧や商人ネットワークについての興味が出てきたりする。
浅いところをたゆたっているようで、深い知識や教養が底を流れているが分かる。ゆらゆらしていると、深い流れがあることに気づかされてハッとしたりする、そこから自由に想像力と知識が繋がっていく。色々勉強してみて、それからまた戻ってきても楽しい、そんな本である。
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