夏におすすめの小説10冊をご紹介
長雨が続いていますが、これが明ければ、いよいよ夏本番です。私にとって読書に季節感はものすごく大事なもの。中でも、夏におすすめの小説はいくつもあって、今回選んだ10選リストは、自分でも毎年のように夏が来ると読んでしまう、とっておきのおすすめ、絶対にハズレなしの自信作です。
読書サイトで紹介されているお馴染みの作品もありますが、海外文学も入っていますので、村上春樹好き、ハルキストの方にも気に入っていただけるラインナップになっていると思います。もちろん、アンチ村上春樹派の方もどうぞ(笑)
夏といっても人によっていろんなイメージがあると思います。少年少女のノスタルジックな夏、青春の一夏、大人のほろ苦い夏、危険な夏やホラー夏などなど・・・いくつかのテーマに分けて色々な気分の夏を味わえるよう厳選しました。夏の旅のお供に、プールサイドやビーチで、冷房の効いた部屋でのんびりと・・・今年「とっておきの夏の一冊」を見つけてくださいね。
テーマ別夏におすすめの小説
青春の夏
少年少女にとって夏というのはとても印象的なもの。一夏の長さ、大きさは大人とは比べ物にならない。かけがえのない、たった一度きりの夏を感じる青春のノスタルジーを感じられる小説を選びました。
⒈『すいかの匂い』江國香織
あの夏の記憶だけ、いつまでもおなじあかるさでそこにある。つい今しがたのことみたいに―バニラアイスの木べらの味、ビニールプールのへりの感触、おはじきのたてる音、そしてすいかの匂い。無防備に出遭ってしまい、心に織りこまれてしまった事ども。おかげで困惑と痛みと自分の邪気を知り、私ひとりで、これは秘密、と思い決めた。11人の少女の、かけがえのない夏の記憶の物語。
少女たちの夏の物語11篇。昭和のノスタルジックな雰囲気と、江國香織さんんのドキドキするような繊細な感覚が溢れています。情景だけでなく、味、匂い、肌触りまで伝わってくるような文章で、ヴァーチャルアトラクションのような体験が味わえます。無邪気なばかりではなくて、ちょっと怖いような切ないような、みずみずしい子供の世界観を思い出してください。
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⒉『夏の庭』 湯本 香樹実
町外れに暮らすひとりの老人をぼくらは「観察」し始めた。生ける屍のような老人が死ぬ瞬間をこの目で見るために。夏休みを迎え、ぼくらの好奇心は日ごと高まるけれど、不思議と老人は元気になっていくようだ―。いつしか少年たちの「観察」は、老人との深い交流へと姿を変え始めていたのだが…。喪われ逝くものと、決して失われぬものとに触れた少年たちを描く清新な物語。
こちらは少年たちの夏物語。おじいさんとの交流と、死との出会い。日本版「スタンド・バイ・ミー」とも言えるような、少年たちの忘れられない一夏が味わえます。いつも少年たちは、唯一無二の夏を過ごして、大人になり、そしてお互いに離れて行く。これがまた、男の人生における孤独感を暗示しているのかなあ、と思います。
⒊『最後の息子』吉田修一
新宿でオカマの「閻魔」ちゃんと同棲して、時々はガールフレンドとも会いながら、気楽なモラトリアムの日々を過ごす「ぼく」のビデオ日記に残された映像とは…。第84回文学界新人賞を受賞した表題作の他に、長崎の高校水泳部員たちを爽やかに描いた「Water」、「破片」も収録。爽快感200%、とってもキュートな青春小説。
こちらはもう少し大きくなった、大人になる一歩手前の少年たちの夏物語3篇。まだ心にどこか幼さの残る少年たちの物語の中に、ほろ苦い人間ドラマが見え隠れする。映画化もされた「Water」が秀逸ですが、少しずつ時間と少年たちの心の屈折が逆行していくような順番になっているのがまた良いので、是非ともこの順番でゆっくり味わってほしい。
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⒋『たんぽぽのお酒』レイ・ブラッドベリ
輝く夏の陽ざしのなか、12歳の少年ダグラスはそよ風にのって走る。その多感な心にきざまれる数々の不思議な事件と黄金の夢…。夏のはじめに仕込んだタンポポのお酒一壜一壜にこめられた、少年の愛と孤独と夢と成長の物語。「イメージの魔術師」ブラッドベリがおくる少年ファンタジーの永遠の名作。12歳からみんな。
『華氏451』で有名なレイ・ブラッドベリの少年少女向けファンタジー小説。ファンタジーと言っても侮るなかれ、想像力の豊かさと文章の流麗さは、本当の大人にこそ味わってほしい作品。キラキラした夏を味わいながら、アメリカの児童文学、YA文学の奥深さを実感できます。
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危険な夏
夏はいつもどこかに危険と狂気を秘めています。夏の暑さが人を狂わせ、時には彼岸と此方の境界線を曖昧にしてしまう。うだるような暑さの中で、さらに暑さの狂気に塗れてぐったりしたり、一筋の恐怖を覚えてヒヤッとしたりするのもまた一興。
⒌『異人たちのとの夏』山田太一
妻子と別れ、孤独な日々を送るシナリオ・ライターは、幼い頃死別した父母とそっくりな夫婦に出逢った。こみあげてくる懐かしさ。心安らぐ不思議な団欒。しかし、年若い恋人は「もう決して彼らと逢わないで」と懇願した…。静かすぎる都会の一夏、異界の人々との交渉を、ファンタスティックに、鬼気迫る筆で描き出す、名手山田太一の新しい小説世界。第一回山本周五郎賞受賞作品。
ちょっと異色のホラー作品。不思議な怪奇譚なのに、大人の渋みと人情味が感じられる、ちょっと他に例のない小説です。ホラーやファンタジーは苦手、という人にこそ、一度読んでみてほしい一冊です。
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⒍『ホテル・アイリス』小川 洋子
染みだらけの彼の背中を、私はなめる。腹の皺の間に、汗で湿った脇に、足の裏に、舌を這わせる。私の仕える肉体は醜ければ醜いほどいい。乱暴に操られるただの肉の塊となった時、ようやくその奥から純粋な快感がしみ出してくる…。少女と老人が共有したのは滑稽で淫靡な暗闇の密室そのものだった―芥川賞作家が描く究極のエロティシズム。
人気の無くなった海辺に残されたホテル。そこで繰り広げられるアブノーマルな快楽の世界。醜悪なほど淫靡なのに美しさが感じられる文章は、小川洋子さんの真骨頂だと思います。『博士の愛した数式』や『ミーナの行進』と言ったほのぼのした作品とはまた違う、小川洋子さんの魅力を味わってみてください。
⒎『悲しみよこんにちは』フランソワーズ・サガン
セシルはもうすぐ18歳。プレイボーイ肌の父レイモン、その恋人エルザと、南仏の海辺の別荘でヴァカンスを過ごすことになる。そこで大学生のシリルとの恋も芽生えるが、父のもうひとりのガールフレンドであるアンヌが合流。父が彼女との再婚に走りはじめたことを察知したセシルは、葛藤の末にある計画を思い立つ…。20世紀仏文学界が生んだ少女小説の聖典、半世紀を経て新訳成る。
言わずと知れた、フランソワーズ・サガン衝撃のデビュー作。思春期の少女が持つ焦燥と残酷さを、こんなに見事に描いた小説は、やっぱり他にないと思います。南仏の別荘で過ごすアンニュイでスノッブな夏の雰囲気に浸るのも良い。是非、夏のヴァカンスにお供してほしい一冊です。
大人の切ない夏
最後は、ちょっと大人な切ない夏の物語3冊。エアコンの効いた部屋で静かに、旅先のプールやビーチサイドで、しっとりじっくり味わって余韻を楽しんでください。
⒏『カイマナヒラの家』池澤 夏樹
様々な人が共同生活を営むその家は、サーフィンに魅せられハワイイに通うぼくの滞在場所となった。夕日の浜でサムに聞いた「神様は着陸を禁じられた飛行機」の話、伝説の女性サーファー、レラ・サンの死。神話を秘めた島ハワイイが見せてくれる、永遠に通じる一瞬と失わなければいけない時を描いた、美しい物語。
写真家柴田満之さんの素敵な写真と共に、池澤夏樹さんの趣ある文章で綴られたショートストーリーの数々をまとめた、まるで詩集のような小説。たった、1、2時間で読み終わってしまうくらい短い物語ですが、夏が来る度に読み返したくなるような、素敵な素敵な大人のお伽話です。今年は残念ながらハワイに行けない!という方も、これを読めばきっと、ハワイの風が感じられると思います(余計に行きたくなってしまうかもしれませんが笑)。
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⒐『休暇は終った』田辺聖子
峯悦子31歳。OLをやめて今少女小説を書いている。23歳の入江類と同棲に似た生活をしている。彼は幼くして母を亡くし、父は別居結婚をしているという。熱烈に私を慕うのだが仕事は長続きせず、大学中退からはじまって、何でもチュータイスト。やがて類の父と知り合うようになった私は、その優しさに触れ、大人の包容力に惹かれていく。一夏の間に揺れ動いた微妙な女心。
田辺聖子さんと言えば大人の女性を描く達人。若くてだらしなくて美しい類、渋くてオトナな魅力満載の類の父親。二人の男の間で揺れる女心。女性なら誰でも「こんな休暇が人生に一度でもあったら・・・」と羨ましがらずにはいられないと思います。田辺聖子さんの大好きなエッセンスが存分に詰まった本です。田辺聖子さんが好きな人もそうでない人も、一是非度お試しください。
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10.『風の歌を聴け』 村上 春樹
「あらゆるものは通り過ぎる。誰にもそれを捉えることはできない。僕たちはそんな風に生きている」1970年8月、帰省した海辺の街。大学生の〈僕〉は、行きつけのバーで地元の友人〈鼠〉と語り明かし、女の子と知り合い、そして夏の終わりを迎える。過ぎ去りつつある青春の残照を鋭敏にとらえ群像新人賞を受賞した、村上春樹のデビュー作にして「初期三部作」第一作。
最後はやっぱり大御所に占めていただきましょう。村上春樹さんのデビュー作。帰省した神戸の街で過ごす一夏。とりとめのない、指の隙間からこぼれ落ちていく時間が、そのまま自分の中で体感できるような小説です。実は、長編『羊をめぐる冒険』『ダンス・ダンス・ダンス』に繋がる「初期三部作」の始まりでもあります。夏にこれを読んで、秋の夜長にシリーズ次作を読んでいく、なんてのもオツです。
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最後に
本当はまだまだおすすめしたい本があるのですが、とりあえず今回は、とっておきの10冊をご紹介しました。今後も、夏のおすすめ小説第二弾や、小説以外の本、他の季節など、おすすめブックリストを掲載していきたいと思いますので、読書好きの方は是非参考にしてみてください。
コメント
コメント一覧 (2件)
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[…] かに見えつつ、かなり変わった宮坂家の一冬の物語です。江國香織さんの作品は、夏のおすすめ小説リストの常連ですが、季節感を語らせたらピカイチの作家さんなのではないでしょうか […]